研究実績の概要 |
本研究は多発性骨髄腫における骨髄微小環境の生物学的特性を明らかにし、活性酸素(ROS)を介する骨髄微小環境を標的にした新たな治療法開発を最終的な目的としている。本年度は、これまでの検討の中でROS産生能を有するわれわれが見出した新たなNF-κB阻害活性を有するTM-233を用いて、その骨髄腫細胞の細胞死誘導に関して検討した。TM-233は生理活性物質1'-acetoxychavicol acetate (ACA)の誘導体であり、ACAに比しより強力なNF-κB抑制効果を有していることを明らかにした。種々の骨髄腫細胞株(U266, RPMI-8226, KMS-11, OPM2, MM-1S)および患者検体を用いた検討では、TM-233は骨髄腫細胞の細胞周期をG1/S期に停止し、細胞死を誘導した。その際に、JAK2およびSTAT3をリン酸化し、下流に存在する細胞死抑制分子であるMcl-1の転写活性を抑制した。加えて、NF-κB活性を抑制した。TM-233はMAPK, Aktなどのシグナル伝達分子には影響を与えなかった。 さらに、われわれが樹立したプロテアソーム阻害薬ボルテゾミブ耐性骨髄腫細胞(KMS-11/BTZ、OPM-1/BTZ)に対するTM-233の影響を解析した。KMS-11/BTZおよびOPM-2/BTZは26Sプロテアソームのβ2サブユニットの変異によりボルテゾミブ耐性を誘導した。TM-233はβ-リングにおけるβ1, β2およびβ5領域を介してプロテアソーム活性を抑制し、ボルテゾミブとは異なる活性を示した。TM-233はボルテゾミブ耐性細胞のNF-κB活性を抑制し、細胞死を誘導した。したがって、TM-233は新たなNF-κB阻害薬として、今後ボルテゾミブ耐性例にも効果を示し得る多発性骨髄腫の治療薬として期待される。
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