研究課題
近年の網羅的遺伝子解析技術を用いた研究から、正常核型を有する急性骨髄性白血病(Acute myeloid leukemia: AML)の発症メカニズムとして、DNMT3A、IDH1/2、TET2などのepigenetic関連遺伝子に変異が生じること、それに引き続いてNPM1やFLT3-ITDなどの変異が生じること、全体として3-4個のdriverとなる遺伝子異常の蓄積があることがある。我々はこのAML発症メカニズムに興味を持ち、研究を進めてきた。本年度は、昨年度作製したレトロウイルスベクターを用いて、in vitroおよびin vivoモデルの作製を試みた。主にDNMT3A-R882H変異を中心に検討を行ってきた。まず種々の非リンパ性白血病細胞株にこれを遺伝子導入した。HL60にDNMT3A-R882Hを導入したところ、コントロールベクターpMY-IRES-mOrangeを導入した場合に比し、CD11b mRNAおよびCD14 mRNAの発現は減少し、azacytidine存在下での細胞増殖能は増加した。しかし、U937やK562を用いた場合にはこの逆であり、一定の傾向が得られなかった。次に、臍帯血由来CD34陽性細胞に遺伝子導入した。これらの細胞を超免疫不全マウスであるNOGマウスに移植したが、長期の生着は得られなかった。現在、これらの細胞を用いて、コロニーアッセイや遺伝子発現変化などの検討を行っている。FLT3-ITD変異については、K562およびHL60に導入し、Ara-C耐性を獲得することを確認した。さらにK562にFLT3-ITD変異を導入したK562/FLT3-ITDとコントロールであるK562/pMYからRNAを抽出してmicroarrayを行い、発現レベルが予後に関係する遺伝子について詳細に検討した。それにより、FLT3-ITDの下流で働く候補遺伝子を同定した。In vivoにおける検討では、NPM1変異とFLT3-ITD変異を同時に発現するベクターを導入したCD34陽性細胞をNOGマウスに移植したが、長期の生着は得られなかった。
2: おおむね順調に進展している
現在までのところ、in vivoの実験系については、DNMT3A-R882H単独、あるいはNPM1変異とFLT3-ITD変異を同時に発現するベクターを導入したCD34陽性細胞はNOGマウスに生着しておらず、正常核型を有するAMLのヒト化in vivoモデルの作製には至っていない。しかし、in vitroではDNMT3A-R882HとFLT3-ITDの単独の遺伝子導入によるphenotypeを確認することができた。特に臍帯血由来CD34陽性細胞に対する遺伝子導入効率については、マウスストローマ細胞株であるMS-5上で培養することにより約1.5倍まで増加できることを確認した。今後、IDH1・IDH2遺伝子変異、NPM1遺伝子変異およびTET2ノックダウンベクターなどについても遺伝子導入を行う予定であるが、この結果はそれらの至適な実験条件の設定に際し重要な参考データとなるものである。
実験計画に従って、NPM1変異とFLT3-ITD変異を同時に発現するベクターとともにエピジェネティクスに関連した遺伝子異常を発現するベクターをヒトCD34陽性細胞へ感染させてNOGマウスへ移植し、白血病発症能につき検討を行う予定であるが、in vivo AMLモデルが作製できない場合に備え、これらの遺伝子異常を導入した細胞株、あるいはヒトCD34陽性細胞を用いたin vitroでの検討も同時に進めていく。具体的には、導入細胞における細胞増殖能や、コロニーアッセイによる各細胞系列への影響、抗がん剤感受性について、特にDNMT3A-R882Hなどepigeneticな遺伝子変異についてはDNAメチル化やそれに伴う遺伝子発現変化を検討することで、これらの遺伝子異常がどのように白血病発症に関与するか、可能であれば標的となりうる候補遺伝子の同定を試みる。これらの候補遺伝子の機能解析を行うとともに、臨床検体を用いてこれらの候補遺伝子の発現・変異解析を行い、頻度や治療反応性など実際の臨床における意義を明らかにしていく。
遺伝子導入によるin vitroおよびin vivoの表現系が十分に出なかったものがあり、pilot studyのレベルで実験を見直したため。本年度は遺伝子解析などに関してより多くの予算が必要となると想定されるため、これに充当する予定である。
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