研究課題
ATLは、レトロウイルスであるHTLV-1が垂直感染によってCD4陽性Tリンパ球に感染し、約60年の潜伏期間を経て発症する悪性腫瘍である。白血病の中で最も予後の悪い疾患であるため、さらなる治療の開発やキャリアの感染発症予防などが必要である。一方、ヒストン脱アセチル化酵素であるSIRT1は、ヒストンのほか、p53、NF-κBなどを基質として、NAD+依存的にこれらを脱アセチル化することで癌や細胞周期、アポトーシスなどの生命機能に関与している。我々はこれまでに、ATL患者の細胞にはSIRT1のタンパク質が健常人と比較して高発現していることを報告した。そこで、本研究では新規SIRT1阻害剤であるNCO-01/04が白血病細胞株に及ぼす影響について検討した。新規SIRT1は、ATL患者由来細胞および白血病細胞株の細胞生存率を低下させると同時にアポトーシスを誘導した。そのメカニズムにはカスパーゼの活性化が関与することが示された。今後、SIRT1に対する作用メカニズムのさらなる解明及び安全性が、ATL患者に対する治療応用に繋がると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
NCO-01/04の処理によりATL患者由来細胞及び白血病細胞株において細胞生存率は濃度依存的に低下し、AnnexinV陽性細胞は濃度依存的に増加した。また、アポトーシス関連因子であるcleaved - PARPとCleaved - Caspase3が増加した。SIRT1はATL患者で高発現しており、白血病細胞でも恒常的に発現していることから、SIRT1を標的としたNCO-01/04によるアポトーシスの誘導は、ATLの新規治療法として有用である可能性が期待された。
SIRT1は、脱アセチル化した領域の遺伝子発現を低下させることにより、細胞内エネルギー代謝に関与する。一方、AMPKは、筋肉や肝臓など生体に広く存在するプロテインキナーゼで、ミトコンドリアでの脂肪酸酸化に影響を及ぼす。また、細胞内のエネルギー恒常性を司る重要な因子であるSIRT1の活性化にも関与し、エネルギー制御タンパクのリン酸化や転写を制御する。これまでのSIRT1を標的にする薬剤と同様に、AMPKを標的にする薬剤に関してもATLをはじめとする白血病細胞における細胞死に対する影響を検討する。また、新規SIRT1阻害剤については、細胞死のメカニズムを探索すると共に、ATL発症マウスでの検討を行う予定である。
消耗品の購入の際、369円が次年度に繰り越されるようになった。細胞培養時の消耗品にあてる予定である。
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