研究課題
今年度は、より効率的なヒト化マウスを作製するため、免疫不全マウスであるNOD/SCID/JAK3 KOマウス(NOJマウス)の新生仔肝臓にヒト臍帯血より分離したCD34陽性造血幹細胞を移植した。その結果、移植後10週目には、移植マウスの末梢血リンパ球のおよそ30~70%がヒトCD45陽性細胞に置き換わり、移植後16週目にはHTLV-1感染実験に用いるために十分なヒトCD4陽性T細胞の増加が認められた。この方法は成体マウスに移植する方法と比べて、HTLV-1感染実験開始時に若いヒト化マウスを用意できるため、より長期の感染実験が可能になると考えられる。さらに今回、ヒト化NOJマウスを用いてHTLV-1感染実験を行った。まず、HTLV-1の感染源であるMT-2細胞がマウスの体内で一定期間に死滅するように、マイトマイシンC(MMC)処理の方法を精査した。MT-2細胞をMMC 50μg/mlの濃度で37℃1時間処理すると、MT-2細胞はシャーレ内では処理後3日で死滅し、マウス体内では、少なくとも移植後2週間には検出されないことを確認した。この条件でMMC処理したMT-2細胞をヒト化NOJマウスに移植した後、マウス末梢血を用いて細胞数カウント、FACSおよびReal-time PCRを行って解析したところ、MMC処理MT-2細胞移植後3週目にはHTLV-1感染細胞が確認された。さらに、MMC処理MT-2細胞移植後4週目になると、HTLV-1感染細胞の増殖が確認され、マウスの個体によっては末梢血中に数万個/μlを超える感染細胞が存在することがわかった。このとき、末梢血中のウイルス量を調べると、30~98 copies/100 cellsであった。HTLV-1感染モデルマウス作製はほぼ確立されており、今後はこのモデルを用いたATL研究やHTLV-1に対する薬剤等の評価に活用していく。
2: おおむね順調に進展している
現在までにヒト化マウスの作製からHTLV-1感染モデルマウスの作製まで、ほぼ確立することができている。また、このHTLV-1感染モデルマウスによって新規HTLV-1薬剤候補の効果を検証することができるよう予備的な結果も得られている。今後さらに、このモデルマウスを用いて薬剤等の検証を行う予定である。一方、ATL幹細胞の解析については、今年度に腫瘍化したと考えられる細胞がモデルマウスに出現することが確認できた段階である。詳細な解析については、平成26年度に行う予定である。
CD34陽性ヒト造血幹細胞のマウスへの移植と並行して、近年、より未成熟な造血幹細胞であると唆されているCD133陽性細胞のマウスへの移植も検討している。今後は、より効率の良いHTLV-1感染モデルマウスの作製が期待される。また今後、確立したHTLV-1感染モデルマウスをHTLV-1に対する新規薬剤等の効果を評価する実験に活用する。現在既に、HTLV-1感染モデルマウスを用いてHTLV-1感染細胞を標的とした新規タンパク質製剤候補の効果検証を始めている。これまでに、本モデルマウスを用いた実験によって、新規タンパク質製剤候補はHTLV-1感染細胞に効果があることを示唆する予備的な結果が得られている。今後はさらに解析を進めていく。一方、今年度作製したHTLV-1感染モデルマウスにおいて、末梢血中に数万個/μlの細胞が存在するATL様の病態が認められる個体が出現した。これらマウスで増殖した血液細胞を数回連続して移植を行うことで、ATL幹細胞の存在について検証する予定である。また、脾臓および骨髄を中心に組織学的解析を行い、ATL幹細胞の局在やその機能を支持するニッチ細胞の有無についても検証していく。さらに、本モデルマウス体内で増殖した細胞について発現遺伝子プロファイリングを行い、病態発症機序の解明を目指す。平成26年度においても、継続的にHTLV-1感染モデルマウスを作製するために必要なマウス飼育維持管理、臍帯血の調達および造血幹細胞分離に必要な諸経費を使用する。また、新規薬剤等の評価およびATL幹細胞の解析として必要なFACS解析に用いる抗体・試薬類、組織学的解析に用いる試薬類および発現遺伝子プロファイリングを行うための諸経費を使用する計画である。
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