研究課題/領域番号 |
24591415
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
北島 健二 公益財団法人東京都医学総合研究所, 生体分子先端研究分野, 主席研究員 (10346132)
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キーワード | iPS細胞 / 転写因子 / 造血幹細胞 / 再生医療 / 細胞分化 |
研究概要 |
ヒト人工多能性幹細胞(hiPSCs)から造血幹細胞への試験管内分化誘導システムの確立は,ヒト造血幹細胞の発生メカニズムの解明,およびhiPSCsを用いた再生医療の実現に重要である. マウス胚性幹細胞(mESCs),マウス人工多能性幹細胞(miPSCs)をOP9ストロマ細胞との共培養により,中胚葉・未分化血液細胞へ分化誘導し,その細胞にLIMーホメオボックス型転写因子(Lhx2)を強制発現させると,長期骨髄再建能・試験管内自己複製能を有する造血幹・前駆細胞が効率よく分化してくることを先行研究により見出している.今回新たに,Lhx2による造血幹・前駆細胞の自己複製誘導には,Znフィンガー型転写因子Gata3の発現上昇,および転写補助因子Lmo2の不安定化が必須であることを見出した. また,先行研究により,Lhx2により得られた造血幹・前駆細胞を放射線照射したマウスへ移植すると,ミエロイド細胞,赤血球,血小板,Bリンパ球に分化するが,Tリンパ球系列には分化しないことを見出している.そこで,抗生物質ドキシサイクリンにより,Lhx2の発現を誘導できるmESCsを作出し,そのmESCsを用いることにより,Lhx2の発現により得られた造血幹・前駆細胞は,Lhx2の発現を抑制することにより成熟Tリンパ球へ分化することを見出した.したがって,Lhx2により得られた造血幹・前駆細胞は,すべての血液細胞へ分化することができる分化多能性を持つこと,および,Lhx2は造血幹・前駆細胞からTリンパ球への分化を抑制する機能があることが新たに判明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Lhx2を利用することにより, mESCsから,すべての血液細胞へ分化することができる分化多能性,自分自身を産生することができる自己複製能,そして,骨髄定着能を有する造血幹・前駆細胞を誘導することに成功した.また,Lhx2による自己複製能誘導の分子メカニズムを解明することができ,mESCsを用いた研究は順調である. hiPSCsでは,hiPSCsを分化誘導して得られた未分化血液細胞(CD34陽性・CD43陽性細胞)に,レンチウイルスベクターを用いてLhx2の強制発現をおこなった結果,コントロールでは培養するにつれて徐々にCD34陽性細胞の割合が低下し,成熟血液細胞へ分化していくのに対し,Lhx2を発現させた場合,CD34陽性のまま維持される割合が高いことを見出している.しかし,このCD34陽性細胞の増殖能は低く,また,hiPSCsから血液細胞への分化誘導効率が極めて低いこと,hiPSCs株間で,分化誘導効率の差が大きいことなどの理由により,未だ明確な結論が出ていない.
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今後の研究の推進方策 |
hiPSCsから血液細胞への分化誘導効率を改善する.OP9ストロマ細胞との共培養により,mESCs・miPSCsを分化誘導した場合,中胚葉系のコロニーが出現するが,hiPSCsを分化誘導した場合,このような中胚葉系コロニーがほとんど見られない.また,マウスの場合,iPSCs株間で血液細胞への分化誘導効率は,ほとんど変化がない. mESCs・miPSCsは,胚盤胞の内部細胞塊の細胞に極めて近い状態(naive状態)を持ち,一方,hiPSCsは少し分化段階が進んだエピブラスト様の状態(primed状態)である.最近,hiPSCsをprimed状態からnaive状態に戻す培養条件が報告された.そこで,naive状態に戻したhiPSCsを用いることにより,mESCs・miPSCsと同様な中胚葉系コロニーが分化誘導されてくるのか,またhiPSCs株間での分化誘導効率の違いが改善されるのか,を明らかにする予定である.また,hiPSCsを分化誘導し得られた未分化血液細胞に,Lhx2と他の転写因子を共発現させることにより,未分化血液細胞の試験管内増幅が可能か否かを明らかにする.
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗品の共有等により経費節減に努めたため 消耗品に使用予定
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