研究課題/領域番号 |
24591419
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
肥田 重明 信州大学, 医学系研究科, 准教授 (10345762)
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キーワード | シグナル伝達 / サイトカイン / アレルギー |
研究概要 |
自然免疫系細胞に発現する病原体センサーに依存したサイトカイン産生は、多様な抗原に対する免疫応答の方向性を決定すると考えられる。自然免疫細胞の一つである好塩基球は、IgE, IgGなどのイムノグロブリン受容体などの細胞表面受容体刺激によって、IL-4やIL-13等の2型免疫応答に重要なサイトカインを産生する。しかしながら、抗体以外の受容体やセンサー分子とそのリガンド認識機構については未だ不明な点が多い。本研究課題ではアレルゲンの一つであるプロテアーゼや自然炎症性分子によって培養好塩基球がIL-4等のサイトカインを分泌することに注目し、またこれらの好塩基球活性化分子によるサイトカイン産生パターンについても解析を行うことで、センサー分子の同定とそのシグナル伝達制御機構について明らかにする。培養好塩基球によるサイトカイン産生には、プロテアーゼセンサーによる認識と活性化T細胞から産生されるIL-3によるサイトカイン産生シグナル伝達の増強作用の2つの経路が重要であることが明らかになってきた。FcRγ欠損マウス由来の好塩基球では、プロテアーゼアレルゲンの一つであるパパインによってIL-4がまったく誘導されないことから、FcRγ結合分子がセンサーとして機能していることが示唆された。このIL-4産生にはプロテアーゼ活性が必須であることも観察できている。種々の遺伝子欠損マウス由来好塩基球やレトロウイルスベクターによる発現誘導や抑制によって、センサー分子は数種類存在する可能性が考えられる。さらにプロテオーム解析等を行い、サイトカイン産生のシグナル伝達機構について、受容体の認識機構も含めて詳細な解析を行っている。また、ATPなどの炎症誘発性リガンドもIL-4産生を誘導することから、他の受容体やシグナル伝達経路についても解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究成果によって、好塩基球のIL-4産生シグナルは、FcRγ依存的な経路と非依存的な経路が存在することが明らかになった。FcRγ依存的な経路においても、①IL-3受容体シグナルのようにITIMを持つ抑制性分子LILR3によって、IL-4産生が抑制される経路と②IgE受容体など、LILR3よって影響を受けない受容体経路(IgE受容体など)が存在する。プロテアーゼセンサー分子は、LILR3によって制御をうけない抗体受容体に類似の経路であることが分かった。これまでにレトロウイルスベクターを用いたFcRγ結合分子群の高発現系もしくはshRNAによる抑制系によって、数種類の候補分子を同定した。また、これらのプロテアーゼセンサー候補分子を高発現させた細胞にプロテアーゼを作用させることで、センサー分子の切断の有無やタンパク修飾について調べたところ、受容体自身が切断される場合と受容体以外の切断されたペプチドが受容体に結合する場合の両方のシグナル伝達機構がある結果が得られている。現在、候補分子に結合しているプロテアーゼ基質について、プロテオーム解析から同定を試みている。また、IL-3によるIL-4産生の相乗効果に関与する遺伝子群についても、mRNA発現アレイを行い、その候補分子についてレトロウイルスによる遺伝子発現やshRNAによる発現抑制系を用いて解析を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
シグナル伝達分子のリン酸化を調べ、種々の阻害剤やshRNAベクターを用いて、プロテアーゼセンサーのシグナル伝達経路の違いとIL-3によって誘導されるシグナル伝達調節分子を同定する。また、これまで継続して行っているLC-QTOF-MS等によるプロテオーム解析によって得られた分子から、プロテアーゼセンサーに結合している分子の候補分子の絞り込みや標的分子や受容体の切断部位の同定も試みる。これまでの種々の刺激に対する遺伝子発現のプロファイリングから、プロテアーゼアレルゲンはFcRγ-Syk経路を使用しているが、IL-4以外の炎症性分子の遺伝子発現や抑制については、IgG/IgEなどの抗体刺激による遺伝子発現パターンとは異なっている。プロテアーゼ特異的なシグナル伝達経路も使用している可能性が示唆されたことから、さらに詳細に分子機構を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
外注予定であったプロテオーム解析などが、学内の総合研究施設の機器を利用できるようになったこと、また、研究に必須の種々のタンパク質を独自に合成・精製したことにより当初計画よりも安価に完了した。また、年度末に細胞保存用超低温フリーザの故障に伴う代替品細胞保存用機器の購入・納品が次年度になったため、次年度使用額が生じたことも理由として挙げられる。 残額 2,700千円と平成26年度予算 800千円で合計3,500 千円 が本年度の予算となる。 遺伝子欠損マウス由来の細胞培養とレポーター細胞の作製、種々の遺伝子導入とタンパク質解析など、細胞生物学的実験と分子生物学的実験に必要な予算として、細胞保存用超低温容器購入 400千円、試薬類・プラスチック器具等の物品費 2,000千円、遺伝子改変動物飼育費用 300千円、学会発表に必要な旅費 400千円、論文投稿・掲載費用 200千円、大学共通機器の使用料 200千円という使用計画にしている。
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