研究課題
12ヶ月齢、24ヶ月齢の自然老化マウスおよび8週齢の若年マウスに対し、心因性ストレスとして2~20時間の拘束ストレスを負荷し、血栓溶解阻害因子であるPAI-1 (plasminogen activator inhibitor-1) の血中レベルおよび組織におけるmRNA発現と、組織内微小血栓形成につき検討した。拘束ストレス負荷後の血中PAI-1抗原量および肝臓、腎臓、副腎、脂肪組織等におけるPAI-1 mRNA発現量ともに、若年マウスに比して老化マウスでは著明に増加していた。拘束ストレス負荷後の老化マウス組織において、in situ hybridization法にてPAI-1 mRNAの組織内局在を調べた結果、腎臓の尿細管上皮細胞にて、肝臓では肝細胞にてPAI-1 mRNAの高発現を認めた。さらに老化マウスでは、副腎髄質のクロマフィン親和細胞や傍大動脈交感神経節の神経細胞にてPAI-1 mRNAシグナルの増強を認めた。老化マウスにおいて拘束ストレス負荷後にもっとも顕著なPAI-1 mRNA発現の増強を認めたのは脂肪組織であり、その局在は脂肪細胞に一致していた。一方、拘束ストレス負荷後の老化マウスにおいては腎糸球体内や脂肪組織内に微小血栓沈着を認めたが、若年マウスでは認められなかった。以上の結果より、老化マウスでは心因性ストレスに対するPAI-1産生反応が著明に亢進しており、それが血栓溶解反応を阻害してストレス起因性血栓症の要因のひとつになっていると考えられた。若年マウスに比して老化マウスでは拘束ストレス負荷後の血中TNF-alpha値も著明に増加しており、上記のように認められた老化マウスにおけるストレス反応性のPAI-1産生亢進は、ストレスによるグルココルチコイドや交感神経系の内因性メディエーターの分泌増加、さらにTNF-alphaなど炎症性サイトカインの産生増加を介したものであると推測された。
3: やや遅れている
自然加齢マウスを用いた実験により、老齢個体における易血栓性および血液流動性維持の破綻機構について、血液凝固能亢進と血栓溶解能低下という観点から基礎的な解析結果が得られた。しかし、老化モデルマウスとして使用予定であったKlotho mouseが供給困難なため入手できず、予定していた解析を行うことができなかった。そのため代替として、若年および老齢個体に対する拘束ストレス負荷実験を行い、ストレス下における加齢依存的な血栓傾向の亢進状態について解析を行った。老齢個体ではストレスによって血栓溶解阻害因子であるPAI-1の遺伝子発現が著明に増強し、組織内微小血栓沈着も高度で、血栓形成傾向が亢進することが確認された。以上より、当初の研究目的の達成度としては「やや遅れている」にとどめることができたと評価する。
実験に使用可能な自然加齢個体を相当数増やすとともに、老化モデルマウスとして使用予定のKlotho mouseの入手に努める。老化モデルマウスを入手後は、実験補助者の協力も得ながら予定している分子生物学的および病理組織学的実験をすみやかに行い、研究目的の達成に向けて精力的に研究を遂行していく。
老化モデルマウスとして使用予定であったKlotho mouseが供給困難なため入手できず、予定していた解析を行うことができなかった。老化モデルマウスの購入費に充てるとともに、分子生物学的および病理組織学的な解析に必要な試薬購入に使用する。また、研究成果の一部を世界に発信するため国際的な学会やカンファレンスでの発表を考えており、そのための旅費・参加費に充てる予定である。国内での主要学会においても、研究成果の発表および関連した研究の情報収集に努める意向であり、所定の旅費・参加費として使用する予定である。さらに、研究成果を論文化することができた際には、その英文校正費や投稿費、別刷印刷費などに使用する予定である。
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