研究課題/領域番号 |
24591423
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
横田 貴史 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60403200)
|
研究分担者 |
金倉 譲 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20177489)
織谷 健司 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70324762)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 造血幹細胞 |
研究概要 |
申請者らは、造血幹細胞の新規マーカーendothelial selective-adhesion molecule (ESAM)を発見した。継続した検討で、ESAMの発現レベルが、造血幹細胞の活性化に伴い、顕著に上昇することが分かった。そこで本研究では、ESAMの発現上昇の生理的意義を明らかにすることを目的に解析を行った。 免疫染色を用いて、ESAM陽性造血幹細胞の存在部位を調べた。5-FU投与後5日目のマウスから大腿骨または脛骨を採取し、骨髄の凍結切片を作製した。切片作製には、非固定非脱灰骨組織からの標本作製技術を用いた。造血幹細胞の指標としてlineage-, Sca1+, ESAM+の他にCD150, CD48を組み合わせ、造血幹細胞の存在部位を精緻に探索した結果、5-FU投与後の活性化したESAM強陽性造血幹細胞は、そのほとんどが骨髄内で血管内皮細胞の近傍に存在することが分かった。 造血幹細胞の活性化におけるESAMの生理的重要性を、ESAM欠損マウスを用いて解析した。ESAM欠損マウスは、定常状態では野生型と比較して造血機能に大きな異常を示さなかったが、5-FUを投与して骨髄抑制を加えると、強い汎血球減少を示した。特に貧血が重篤で,約30%のマウスが造血の回復前に死亡した。Flow cytometryやコロニーアッセイにて赤芽球系の前駆細胞数を評価したところ,造血幹細胞に近い極めて早期の段階が影響を受けていることが分かった。血液細胞とと血管内皮細胞のどちらのESAM発現が造血機能の回復に重要なのか、ESAM欠損マウスの造血幹細胞を移植した野生型マウスと、野生型の造血幹細胞を移植したESAM欠損マウスを作製して解析した結果,血液細胞側のESAM欠損の方が造血幹細胞の回復に大きな影響を与えることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書では、造血幹細胞の活性化に伴うESAMの発現上昇の生理的意義を明らかにし、さらに白血病幹細胞のマーカーとしての有用性と治療標的としての可能性を解析して、ヒトの血液病の診断・治療に繋げていくことを本研究の目的として掲げた。 研究期間の初年の段階で、造血幹細胞の活性化に伴うESAMの発現上昇の分子生物学的機序と生理的意義に関して多くの研究結果が得られた。骨髄抑制からの回復時、造血幹細胞は骨髄内で血管内皮細胞近傍に移行する学説が提唱されてきたが,私達の研究成果はそれを実証的に裏付けた。造血幹細胞内部においては,骨髄抑制後の造血幹細胞におけるESAM発現上昇が、NF-kBとトポイソメラーゼIIの阻害剤の投与によって抑制されるというデーターを得た。さらにESAM遺伝子のプロモーター領域を解析し,NF-kBやトポイソメラーゼIIの作用がESAMの発現上昇に重要であり,その結果誘導される造血幹細胞の増殖においても極めて重要であることを明らかにした。これらの成果は、学会報告だけでなく一つの論文としてまとめることが出来た。 ヒトの造血幹細胞におけるESAMの発現と増殖・分化能力の関連や、ヒト白血病症例におけるESAMの発現に関しても、関連法規を遵守しインフオームドコンセントのもとで得られた検体を用いて解析を進めている。以上の状況を総合すると,本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
ヒト造血幹細胞におけるESAMの発現と増殖・分化能力との関連について検討する。これまでの検討で,ヒト臍帯血CD34+ CD38-細胞は、ESAM lowとESAM Highの2種類の集団で構成されていることが分かった。これらの細胞を分離し、血液細胞と血管内皮細胞の培養系にて増殖・分化能力を調べる。また免疫不全マウスへの移植を行い、どちらに造血幹細胞が存在するのかを調べる。 ヒト白血病症例におけるESAMの発現について検討を進める。関連法規を遵守し、インフオームドコンセントが得られた症例から白血病細胞を回収する。各種白血病の病型とESAMの発現に関するデーターを集積する。対照となる正常ヒト骨髄細胞は、関連法規を遵守しインフオームドコンセントが得られた血縁者間骨髄移植ドナーから得られた検体を用いる。 更なる展開として,ヒト白血病細胞におけるESAMの機能解析と新しい診断・治療法への応用を目指す。ヒト白血病細胞株を用いた実験で、骨髄芽球性白血病細胞株の一部にESAMが発現しており、更にその強度は同じ細胞株の中でも一様ではないことが分かった。ESAM発現とin vivoでの増殖能や薬剤に対する感受性の関連を検討する。また、ESAM陽性白血病細胞を認めたヒト症例から、ESAM陰性とESAM陽性の白血病細胞を分離し、免疫不全マウスに移植する実験を行う。移植後長期間観察し、ESAM陰性とESAM陽性のどちらの分画が白血病幹細胞を含むのかを評価する。またESAM陽性ヒト白血病細胞が、マウス骨髄において血管内皮細胞などの間質細胞群とどのように相互作用するか、免疫組織染色法を用いて評価する。ESAM陽性分画に白血病幹細胞が存在する結果が得られた場合、その細胞を移植した免疫不全マウスにNF-kBやトポイソメラーゼIIの阻害剤を投与し、腫瘍抑制効果を評価する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
必要機材は整っているので、研究費のほとんどは遺伝子実験関連試薬・培養用培地・抗体・サイトカイン・動物購入費用などの消耗品の購入にあてる。本研究では、マウスおよびヒトの造血幹細胞を高純度で分離するため、多種類の標識抗体を必要とする。さらに分離した細胞を培養する際、各種サイトカインを必要とする。本研究で用いるESAMノックアウトマウスの維持と移植実験のため、交配用の野生型の C57BL6マウスを定期購入する。またヒトの血液細胞を移植するレシピエントとして、免疫不全マウスを購入する。また成果発表の為,国内学会への旅費と米国血液学会への渡米旅費として約20万円使用する予定である。
|