研究課題/領域番号 |
24591426
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
藤原 弘 愛媛大学, 医学部附属病院, 講師 (20398291)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 細胞傷害性Tリンパ球(CTL) / T細胞受容体(TCR)遺伝子 / 免疫記憶細胞 / 白血病性幹細胞 / 抗白血病効果 / 細胞免疫療法 |
研究概要 |
腫瘍抗原特異的T細胞受容体(T-cell receptor: TCR)遺伝子を導入して作った人工的な腫瘍特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)をがん治療に用いる細胞免疫療法は、現在アメリカを中心に臨床試験が行われ、その有効性が証明されつつある。 我々は、白血病性幹細胞に高発現していると考えられているがん抗原WT1を、日本人に頻度が多いHLA-A24拘束性に認識するTCR遺伝子を、独自に開発した高効率レトロウイルスベクター(WT1-siTCR vector)を用いて導入した人工CTLを使って、血液がんを治療する日本初の臨床試験の今年度実施を予定している。 本治療法開発研究過程で、人工CTLが投与された生体内で長期間生存出来ることが高い治療効果に繋がることを見出した。輸注された人工CTLの長期生存には免疫記憶細胞(メモリー細胞)特に、セントラルメモリー細胞の性格を持つ人工CTLの果たす役割が大きい。輸注する人工CTLの腫瘍応答性を高めて、かつ患者体内に長期間留まることを可能にする方法として、我々はがん細胞を特異的に認識するCD4陽性T細胞を利用する系を開発した。概して腫瘍特異的CD4陽性T細胞を大量に得ることは容易ではない。そこでWT1-siTCR vectorを用いてCD4陽性T細胞のHLAクラスII拘束性に抗原を認識する内因性TCRを抑制すると同時に、導入したWT1特異的TCRを介してHLAクラスI拘束性にがん抗原を認識する新たなヘルパーT細胞を作成した。この人工ヘルパーCD4陽性T細胞と人工CTLを同時に患者に輸注することで、輸注後早期の治療効果を高めるだけでなく、患者体内で人工CTLのセントラルメモリー細胞への分化も誘導できることを見出した。さらにヒト白血病細胞を移植した免疫不全マウスを用いた治療モデルでも、その効果を確認した(投稿準備中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
同じ抗原を認識するTCR遺伝子を用いて遺伝子改変した人工ヘルパーCD4陽性T細胞と人工CTLは、標的である白血病細胞上の同じ抗原を認識することから、輸注された体内では、比較的近くに位置する可能性が高まると予想している。これらCD4陽性T細胞とCTLを一緒に輸注することで、白血病細胞を認識した近傍の人工ヘルパーCD4陽性細胞からのサイトカイン刺激を受けて、人工CTLは白血病細胞移植マウスモデルにおいて、白血病細胞移植部位に効率よく集積して白血病細胞の増殖を抑制し、なおかつマウス体内での長期生存も得られている。これらの機序の結果として、人工CTL単独輸注や遺伝子改変していないCD4陽性細胞と合わせて輸注した場合に比べて、人工ヘルパーCD4陽性T細胞と人工CTLの輸注では、その治療効果が格段に向上することまで確認できた(投稿準備中)。この段階は、技術的にも直ちに臨床応用できる。 ここまで、本研究の主題の一つである、免疫記憶細胞機能を持つ人工CTLの臨床応用に向けた方法論の一つは検証出来たと考えていて、概ね順調に進行していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
次の段階は、1)試験管内で、予め免疫記憶細胞の機能を持たせたT細胞に、骨髄性白血病性幹細胞を標的にできるWT1特異的TCR遺伝子を導入して作成した、人工メモリーCTLを免疫不全マウスに輸注して、輸注後の体内動態をin vivo imagingを用いてtraceする。 2)患者骨髄性白血病幹細胞を移植して発症させた免疫不全マウス(ヒト化マウス)を用いて、人工ヘルパーCD4陽性T細胞が示すCXCR-4-CXCL12の系を介した骨髄への移行性と活性化CD4自身へ向けて人工CTLを遊走させる事が出来る作用を利用して、輸注された人工メモリーCTLがマウス骨髄内に移行して骨髄内に留まり、患者骨髄性白血病性幹細胞を長期に渡って監視抑制出来るか否かを病理学的に検討する。さらに、その骨髄内動態の可視化へ向けた検討を行う。 これらの課題を順次解決する方向で研究を進める。出来るだけ、より実際の患者の病態に近いモデルにして、前臨床試験的に、この治療法の有効性を検討したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の内容に従って、細胞培養関連、遺伝子導入試薬、NOGマウス購入と飼育、in vivo imaging実験の費用に研究費を充てる。 また、現在得られた結果を、国際雑誌に論文発表する経費、学会等で成果を発表する旅費等にも、その一部を充てる。
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