研究課題
基盤研究(C)
欧米の臨床において、伴性劣性重症複合型免疫不全症(X-SCID)に対する胎児造血幹細胞移植が成功を収めた。しかし、X-SCIDと異なり移植細胞に増殖優位性のない疾患では、移植後の生着効率(ドナー由来造血キメラ率)が低く、十分な治療効果が得られない。一方、マウス胎仔への造血幹細胞移植では、生後のドナーリンパ球輸注療法(DLI)や追加移植によって、ほぼ100%のドナー由来造血キメラ率が得られている。ヒト臨床でも、移植前後に同様の処置を施すことによって、様々な先天性疾患で出生前胎児治療が可能ではないか。本研究では、このことを大型動物(サルやヒツジ)実験で検証する。研究代表者は、ヒツジ胎仔にヒト造血幹細胞を移植することによって、ヒトの造血をヒツジ体内で再構築する実験を行ってきた。ヒツジを用いるのは、移植後の流産が少なく、胎児サイズがヒトに近く、マウス実験より観察期間を長く設定できるからである。これまでに、造血幹細胞の自己複製能を高めるHoxB4遺伝子をあらかじめ移植細胞に導入する実験を行った。その結果、HoxB4遺伝子導入によって、移植後のドナー由来造血キメラ率を高められることを示した。本年度は、骨髄移植で移植前処置剤として使用されているブスルファン(BU)をヒツジ胎仔に投与する実験を行った。すなわち、ヒツジ本来の造血を抑制することによって、移植細胞に相対的な増殖優位性を付与できないかどうかを検討した。しかしBUには、ヒツジならびに胎仔で用いた報告はない。そこでまずは、ヒツジ胎仔における至適投与条件(投与量・投与ルート)を検討し、母体静脈経由での安全な前処置法を開発した。BUを投与したヒツジ胎仔にヒト臍帯血CD34陽性細胞を移植した結果、ヒト造血キメラ率を有意に向上させることに成功した。
2: おおむね順調に進展している
研究はほぼ計画通りに進んだ。平成24年度の交付申請書に記載した研究計画は以下の3点だが、いずれも実施できた。(1)サル・ヒツジの胎仔への移植:本年度はヒツジを用いた移植実験を行った。(2) 有効性と安全性の検証:ブスルファン投与による前処置を行った胎児造血幹細胞移植の動物実験として、ヒツジを用いてその有効性と安全性を検討できた。(3) 移植前処置:ブスルファン投与によって、移植後のドナー由来造血キメラ率の改善を示すことが出来た。以上の実験において移植する造血幹細胞として、以前取得済の臍帯血CD34陽性細胞を利用できた。ヒツジ胎仔への細胞移植実験の実施にあたっては、宇都宮大学農学部長尾慶和教授や東京マザーズクリニック 林 聡 博士の協力が得られたことで、直接経費を執行せず研究を円滑に進めることが出来た。
今後も主にヒツジを用いて、計画通り研究を進める。本年度(平成24年度)繰越した研究費は、移植後のヒツジの解析等に充てる。また、必要に応じてサルも使用する。
来年度(平成25年度)の研究費は、ヒツジ及びサルの実験にかかる諸費用、細胞の培養、移植後の解析等に使用する。また、学会へ発表する場合の旅費に使用する。
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Experimental Hematology
巻: 40 ページ: 436-444
DOI:10.1016/j.exphem.2012.01.018