研究課題
本研究では、IL-6を標的とした生物学的製剤トシリズマブ(TCZ)(ヒト化抗IL-6受容体抗体)が著効した関節リウマチ(RA)患者のTCZ投与前および投与後におけるCD4陽性T細胞の遺伝子発現変化を網羅的に解析することによりRAの病態への関与が推測される候補遺伝子を抽出し、マウスT細胞分化系、及びマウス関節炎モデルを用いてその機能に解析することを目的とした。TCZ投与症例およびコントロール薬剤投与症例の有効例において、末梢血CD4陽性T細胞のDNAアレイ解析で治療後12週で有意にシグナル値の変動するプローブをそれぞれ上位100個ずつ抽出した。その中でTCZ特異的に発現が変動している遺伝子が18個抽出され、17遺伝子はTCZにより発現が低下する遺伝子であった。その中で従来ヘルパーT細胞分化に関する知見のないARID5Aに注目した。ヒト末梢血およびマウス脾臓由来のナイーブCD4陽性T細胞から各種条件で分化誘導した細胞では、Th17細胞においてARID5AのmRNA発現が亢進していた。興味深いことに、マウス脾臓由来のCD4陽性T細胞にレトロウイルスベクターを用いてARID5Aを強制発現させると、Th17細胞分化が低下した。Treg細胞分化に対する影響はなかった。T細胞特異的STAT3欠損マウス由来のTh17細胞ではARID5AのmRNA発現が著明に低下していた。レポーター解析ではARID5Aの強制発現はRORgtによるIL-17発現を抑制し、またウェスタンブロットによりARID5AとRORtの直接結合が示された(Arthritis Rheum, in press)。
2: おおむね順調に進展している
予定の方法により、IL-6阻害薬によりRA患者のCD4陽性T細胞で発現が低下する遺伝子を抽出し、CD4陽性T細胞分化における役割が未知の遺伝子ARID5Aを同定した。またARID5AのTh17細胞における発現の亢進、その発現誘導機構、さらにTh17細胞分化抑制機構が明らかとなり、おおむね平成25年度までの研究計画通りに進展していると考える。
1) ARID5AのT細胞特異的トランスジェニックマウスの解析:ARID5AをLCKプロモーターの制御下にT細胞特異的に発現するトランスジェニックマウスを作製し、表現型、特にヘルパーT細胞分化、並びにコラーゲン誘導性関節炎の重症度を解析する。2) ARID5Aの遺伝子欠損マウスの解析:ARID5Aの遺伝子欠損マウスの表現型、特にヘルパーT細胞分化と自己免疫疾患の自然発症、並びにコラーゲン誘導性関節炎の重症度を解析する。3) RORgt以外の標的分子の同定:マウスCD4陽性T細胞にbicistronic retrovirusを用いて候補遺伝子を過剰発現させ、ARID5AのDNAへの結合を抗候補遺伝子抗体を用いた免疫沈降シークエンス法(Solexaシーケンシングテクノロジー)でゲノムワイドに解析する。4) 新規血清バイオマーカー確立3)で同定される標的分子中、分泌蛋白の測定系(ELISA或は蛋白チップ)を確立し、TCZおよび他の抗リウマチ薬(メトトレキサート、TNF阻害薬、アバタセプト)で治療された患者の治療前後の血清における候補分子のレベルを測定し、新規バイオマーカーとしての有用性を検討する。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Arthritis Rheumatol
巻: in press ページ: in press
10.1002/art.38400
Arthritis Rheum
10.1002/art.38324