研究課題/領域番号 |
24591442
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩田 哲史 東京大学, 医科学研究所, 特任講師 (00396871)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 接着分子 / 関節リウマチ / アダプタータンパク質 / インテグリン / シグナル伝達 / Nedd9 / Cas-L / マクロライド |
研究概要 |
本研究では、β1インテグリン下流に位置するドッキング蛋白であるCas-Lのノックアウトマウスを使用してその関節炎発症機構における病態生理学的役割について解析を行い、これまでに下記の結果を得た。 1. Cas-Lノックアウトマウス(KO)と野生型マウス(WT)にII型コラーゲンで関節炎(CIA)を誘導した場合、KOでは発症の遅延と重症度の低下が観察された。関節滑膜の病理学的所見では、炎症細胞浸潤、滑膜の増生・肥厚や骨破壊像を認めず、エックス線写真でも同様に、関節炎所見を認めなかった。この結果は、Cas-Lの生物学的機能として知られている遊走能及び接着能がKOでは低下していることによって生じた可能性が考えられた。 2. KOとWTの血清中抗コラーゲン抗体価を測定した結果、KOでは抗体価が有意に低値であり、コラーゲン再刺激後の細胞増殖反応は低下していた。またKOにおいて二次リンパ器官におけるT・B細胞の機能異常が示唆された。 3. KOとWTの間での骨髄細胞移植実験では、KO骨髄を致死量の放射線を照射したWTへ移植した群[KO→WT]と、WT骨髄を致死量の放射線を照射したKOへ移植した群[WT→KO]にCIAを誘導したところ、[KO→WT]では、[WT→KO]に比較して重症度の低下を認めた。この結果から、KOの関節炎発症には骨髄由来細胞が関与する可能性が示唆された。 KOとWTの脾臓由来CD4陽性T細胞に対し、抗CD3抗体と抗CD28抗体およびfibronectinで共刺激を行い、その細胞増殖反応を評価した。この結果、抗CD3抗体/抗CD28抗体での共刺激ではKOの方で有意に細胞増殖反応が高値であった。逆に、抗CD3抗体/fibronectinでの共刺激系では、KOの方で細胞増殖反応が高値であった。Cas-Lが、抗CD3抗体/抗CD28抗体共刺激系に影響を与えている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
化合物スクリーニング系の開発、及びベクター注入系の開発が遅滞している。ベクター系については、Cas-L shRNAiのレンチウイルス、miRNA発現レンチウイルス、shRNAi発現レトロウイルス等多数を作成した。今後、in vitro, in vivoでの導入効果及びCas-L発現抑制効果を指標に選定を進めていく。 Cas-L dominant negative発現系については、ベクターの構築に不備があることが判明したため (pME-IRES-GFPに組み込んであるが、IRESの前にCas-L遺伝子由来のtermination & poly A付加シグナルが残っており、GFPの発現が低下することが明らかとなった)、再構築を検討している。 化合物スクリーニング系については、Two-hybrid系は既に持っているが、Cas-Lにチロシンキナーゼを加えたThree-hybrid系の構築が未だなので、その確立が急がれる。
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今後の研究の推進方策 |
マクロライド化合物は、抗菌作用以外に免疫調節作用を併せ持つことが知られている。本研究計画の4つ目の柱となるプロジェクトについて、我々は、抗菌作用のない新規RXM誘導体5-Iを合成し、その免疫調節作用及び関節炎に対するマウスコラーゲン誘発関節炎治療効果をRXMと比較検討した。5-I及びRXMは、CD3/CD28共刺激下でのヒトT細胞によるIL-2, IFN-, IL-17, TNF-, IL-6産生、LPS刺激マクロファージによるTNF-, IL-6産生、活性化T細胞の遊走能を抑制した。一方、増殖反応やTh2サイトカイン産生には影響しなかった。また、コラーゲン誘発関節炎モデルへの発症前並びに発症後投与により、肉眼的、病理学的関節炎スコアの改善を認めた。5-Iにより、マクロライドの免疫調節作用と抗菌作用を分離することができた。今後、5-IのDDS開発、局所投与の可能性検討を進め、できるだけ早期に関節リウマチへの治療応用を目指したい。 また、マクロライド(RXM, 5-I)添加したCD3+CD28刺激ヒト末梢血CD4陽性T細胞のマイクロアレイ解析、Cas-Lノックアウトマウス及び野生型マウスのコラーゲン関節炎の罹患関節滑膜からmRNAを抽出してマイクロアレイ解析を行った。 今後、共同研究先とバイオインフォマティクス解析を進め、これらふたつのモデルにおいて鍵となる分子の特定を急ぐ。
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次年度の研究費の使用計画 |
人工遺伝子作成による点変異体作成、ウイルス発現ベクターの再構築を進める。 また、マイクロアレイ解析で同定した種々の遺伝子のRT-PCRによる解析を進める。 遅れている化合物スクリーニング系の開発のために、酵母Three-hybrid systemの構築を行う。 また、Cas-LノックアウトマウスにおけるTreg, Th17細胞の分布及び性質について検討を進めるとともに、T細胞分化における、ROR-発現に対するRXM, 5-Iの作用についても解析する予定である。
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