研究課題/領域番号 |
24591454
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研究機関 | 獨協医科大学 |
研究代表者 |
小端 哲二 獨協医科大学, 医学部, 教授 (10205445)
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キーワード | HIF-1α / B細胞分化 / 制御性T細胞 / 解糖系 / 自己免疫 |
研究概要 |
(1)転写因子HIF-1αの骨髄B細胞における機能発現は、分化段階特異的にIL-7により制御されることを示したが、この検証をHIF-1α欠損骨髄細胞を用いて行った結果、骨髄B細胞ではIL-7によりHIF-1αが制御されていることを明らかにした。 (2)HIF-1α欠損キメラマウスで観察される自己免疫が骨髄B細胞分化異常に起因するかを検討した。これまでに解糖系阻害剤2DOGにより、骨髄細胞培養でHIF-1α欠損キメラマウス骨髄でのB細胞分化と同様な表現型を再現できることを明らかにしてきた。2DOGを用いて培養した骨髄細胞を免疫不全RAG-2欠損マウスに移植してキメラマウスを作製・解析した結果、このキメラマウスでは自己抗体産生は検出されず、脾臓B細胞亜集団も正常マウスとほぼ同様であった。しかし、骨髄でのB細胞分化は、pre-B細胞分画が著しく減少したHIF-1α欠損キメラマウスと同様であった。これらの結果から、HIF-1α欠損B細胞の骨髄での分化異常が末梢B細胞の表現型及び自己抗体産生に直接関与するものではないことが示唆された。また、HIF-1α欠損キメラマウスでの、自己抗体産生と外来抗原に対する抗体産生におけるHIF-1αの役割を検討した結果、これらの抗体産生ではHIF-1αの役割が異なることが示唆された。 (3)制御性T細胞(Treg)は解糖系への依存性が他のT細胞と比べて低いことを示した。Tregの細胞代謝を検討した結果、conventional T細胞(Tconv)と比べ、Tregでは酸化的リン酸化経路によるATP産生の依存度が高いことが示唆された。一方、ミトコンドリア状態はTconvと同様であった。 連携研究者:橋口昌章(研究者番号20372443、獨協医科大学医学部准教授、博士(農学))、柏倉裕志(研究者番号40382890、獨協医科大学医学部助教、博士(医学))
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画では(1)正常な骨髄でのB細胞分化過程におけるHIF-1αの機能発現機序、(2)自己抗体産生B細胞分化におけるHIF-1αと解糖系の役割、(3)Tregの機能発現におけるHIF-1αとエネルギー代謝、特に解糖系の役割、の3点を明らかにすることを目標とした。二年目終了の現在、(1)に関してはIL-7など液性因子による機序を明らかにし、現在論文投稿準備中である。(2)については、HIF-1αの自己抗体を含む抗体産生が、骨髄での分化異常によるものではなく、末梢での分化過程で獲得される可能性を示す結果を得ている。これを検証するために現在B細胞特異的HIF-1α欠損マウスを用意している最中であり、もう一世代の掛け合わせで樹立されるところである。HIF-1α欠損B細胞が安定的に供給されることにより、養子免疫等により、本課題に一定の結果を得られるものと期待できる。(3)では、末梢においてTregの酸化的リン酸化への依存度がTconvよりも高いことが明らかとなった。これまで、Tconvと比べて依存度が低いものは明らかになってきたが、依存度が高い機構が初めて明らかになった。Tregの代謝の解明の突破口になることが期待できる。また、Tregが他のT細胞と比べて、免疫応答時の、代謝だけではなく、挙動が異なることを明らかにしてきている。この挙動が代謝の違いで説明できるかを検討するのは大変興味深く、次年度以降の新たな検討課題としてとらえている。 以上、次年度以降への研究の進展が期待できる結果が得られている。 連携研究者:橋口昌章(研究者番号20372443、獨協医科大学医学部准教授、博士(農学))、柏倉裕志(研究者番号40382890、獨協医科大学医学部助教、博士(医学))
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今後の研究の推進方策 |
(1)B細胞特異的HIF-1α欠損マウスを用いて、その末梢B細胞、marginal zone B細胞(MZB),follicular B細胞(FOB)を養子免疫することにより、自己抗体の産生を伴った自己免疫が誘導されるかを確認する。 (2)野生型マウスのMZBとFOBでHIF-1αが発現されているかを組織学的に検討し、脾臓でHIF-1α欠損B細胞が増加することとHIF-1αの発現の関連を確認する。さらにB細胞特異的HIF-1α欠損マウスを用いて、自己抗体産生と外来抗原に対する抗体産生におけるHIF-1αの役割を検討する。また、これに関連して免疫応答時における免疫組織での酸素濃度、グルコースの取り込み,そしてHIF-1αの発現を検討し、広く抗体産生におけるHIF-1αの役割を検討する。これらの検討により、末梢でのB細胞の分化(表現型、及び機能面)におけるHIF-1αの役割を総括する。 (3)Tregの免疫応答時の挙動と細胞代謝・エネルギー産生を検討する。免疫応答時におけるTregを経時的に分取し、ATP産生量を検討し、エネルギーの要求性をTconvと比較検討する。さらに、Tregの酸化的リン酸化の機能と役割の詳細をTconvと比較検討する。これらの検討から、Tregの免疫応答時に観察される挙動が、Tconvとの細胞代謝の違いによるものかを解析する。また、Tconvとの細胞代謝・エネルギー要求性の違いが、恒常性の維持、及び外来抗原に対する免疫や自己免疫の制御と関連しているかを検討する。 連携研究者:橋口昌章(研究者番号20372443、獨協医科大学医学部准教授、博士(農学))、柏倉裕志(研究者番号40382890、獨協医科大学医学部助教、博士(医学))
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次年度の研究費の使用計画 |
当初予定していた学術雑誌の購入を取り止めたため、45,359円の残が発生した。 次年度の物品費に加えて使用する。
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