B細胞特異的HIF-1α欠損(CKO)マウスを樹立し解析を行った。CKOマウスでは、抗体のクラススイッチの機能不全は観察されたものの、HIF-1α欠損キメラマウスで見られた自己抗体産生を伴った自己免疫現象が観察されなかった。また、CKOマウスでは野生型マウスと同様のmarginal zone B細胞とfollicular B細胞の分布を示していた。CKOマウスではHIF-1αはB細胞分化の初期段階で欠損するが、HIF-1α欠損キメラマウスでは骨髄幹細胞ですでにHIF-1αを欠損しており、自己抗体産生及び末梢でのB細胞分化は、B細胞の分化段階の極めて初期にHIF-1αにより制御されている、あるいはB細胞以外のリンパ球においてHIF-1αが重要な働きをしている可能性が示された。また、解糖系阻害剤を用いて、解糖系への依存性が低い骨髄細胞を選択培養し、それらを免疫不全マウスに移入して免疫系の再構築を試みたところ、骨髄でのB細胞分化はHIF-1α欠損キメラマウスのそれと酷似していたが、自己抗体の産生は検出されなかったことから、分化の表現型と自己抗体産生が関連していないことが示された。 一方、解糖系の依存性が低い制御性T細胞(Treg)はconventional T細胞(Tconv)に比べてATP産生が低いことを明らかにし、Tregの解糖系への依存性の低さは、エネルギー要求性の低さによる可能性を示した。しかし、脂肪酸のT細胞の活性化における役割を検討したところ、脂肪酸によりTreg依存性にTconvの活性を阻害する可能性を示唆する結果が得られ、Tregは糖ではなく脂肪酸をエネルギー源として利用し、自己免疫を含む免疫応答の制御に寄与する可能性が示された。この結果はリンパ球サブセットにおけるエネルギー代謝の違いが免疫制御の標的となる可能性を示している。 連携研究者:橋口昌章(研究者番号20372443、獨協医科大学医学部准教授、博士(農学)、柏倉裕志(研究者番号40382890、獨協医科大学医学部助教、博士(医学)
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