好中球が自らのクロマチン線維及び種々の顆粒蛋白を細胞外に放出し、外来微生物を補捉するメカニズムであるNeutrophil Extracellular Traps(NETs)が新たな生体防御メカニズムの一つとして注目されている。一方でNETsの制御不全は様々な疾患の病態に深く関与することから、安全なNETs制御法の開発が重要な課題となっている。我々は自己免疫性血管炎の自然発症モデルSCG/kjマウスの生存を延長する物質をスクリーニングすることによりLfを抽出し、LfがNETsの過剰な産生を抑制し生体に対し保護的に作用するという仮説を立て検証した。ヒト末梢血由来好中球にphorbol 12-myristate 13-acetateや活性化血小板、抗好中球細胞質抗体(ANCA)といった種々の刺激を加え、各々により惹起されたNETs形成が外因性のLfにより抑制されることを、共焦点顕微鏡下生細胞観察および培養上清DNAの定量を用いて見出した。また、ヒト骨髄球系白血病細胞株であるHL-60細胞では、siRNA処置によるLf蛋白のノックダウンによりNETs形成が増強し、Lfが内因性のNETs抑制物質であることが示唆された。NETs形成におけるLfの局在を免疫染色により観察したところ、刺激後その局在が細胞質から細胞膜に移行した。また、活性酸素産生を検出するプローブを用いることにより、LfがNETs形成の中心的な役割を持つとされる活性酸素種産生系とは独立してNETs形成を抑制することが分かった。本研究において我々はLfがNETs形成の強力な抑制物質であることを発見し、そのメカニズムはLfが持つ強い陽性荷電であると考えられた。炎症および血栓性疾患、あるいは自己免疫性疾患にNETsが深く関連することが明らかにされていることから、Lfが新たな治療薬として臨床応用されることを期待し研究を続けている。
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