研究課題
基盤研究(C)
免疫応答の最前線に位置し,自己と非自己の抗原認識に深く関わっている樹状細胞は各種感染や炎症の特性に応じて異なる免疫応答を誘導し得ることが知られている。この性質を樹状細胞の機能的可塑性と呼び,樹状細胞を活性化させる因子の質的・量的差異およびそれらの組み合わせによって生み出されると考えられている。申請者はこれまでにアレルギー発症に深く関わっているサイトカインTSLPがヒト樹状細胞を活性化させる機構を明らかにしてきた。TSLPは主として上皮細胞から産生・分泌される分子であり,受容体欠損マウスでは実験的アレルギー症状の軽減が見られるなど,アレルギー治療の新規標的分子として注目されている。本年度はTSLPの樹状細胞特異的シグナルをさらに詳細に解析すべく,TSLP受容体を強制発現させる細胞株のシステムを用いて変異受容体のシグナル伝達への寄与を調べた。その結果,TSLP受容体の一部(4アミノ酸)を欠失した変異体では樹状細胞特異的シグナルが大きく影響を受けることが分かった。一方,TSLP受容体鎖の会合分子の同定にも取り組んだが,現在までに機能的に意味がある分子を探し出すにはいたっていない。また一連の実験の過程でTSLP受容体が他のサイトカインシグナル伝達の強度に影響を与えることが見出され,TSLP受容体鎖が他のサイトカイン受容体鎖と相互作用している可能性が示唆された。これまでにTSLP受容体鎖が他のサイトカインの受容体の一部として機能するとの報告はなく,興味が持たれる。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究実施計画の二つの柱のうち一つ目の樹状細胞特異的TSLPシグナルの生化学的解析は詳細に行うことができ,いくつかの新知見を得た。二つ目の実施計画であるTSLP受容体との会合分子の検索についてはこれまでのところうまくいってはいない。しかしながら,全体としては実験系がよく機能しており,今後,新たな知見が得られることが期待されるため,達成度は上記区分とした。
TSLP受容体の会合分子の同定はアレルギー性炎症を作り出す樹状細胞の機能を明らかにする上で鍵となるポイントであり,是が非でもこの分子の同定を行いたい。しかしながら,初代培養細胞の数に限りがある現況において,細胞株に頼らざるを得ない状況は次善の策とは言え,目的を完遂するために不適切な選択となる可能性も否定できない。このことから,仮にそのような分子の同定が不可能であった場合でも意味ある研究成果をあげるためには,シグナル上流における会合分子の同定に拘り過ぎることなく,シグナルの下流の方からTSLP作用がいかに調節されているのかを検討する実験も行っていきたいと考えている。
50万円を超える物品購入は予定していない。研究遂行に必要な生化学実験,分子生物学実験,細胞培養に必要な試薬,物品等の購入が中心となる。また,学会発表に関連した旅費としての出費も予定している。
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