研究課題
我々は、オートファゴゾームの膜構成成分であるLC3-II(Atg8)がマスト細胞の顆粒に局在すること、およびLC3-IIの形成に不可欠なオートファジー関連遺伝子Atg7を欠損したマスト細胞の顆粒成分や脱顆粒に異常をきたすことを見出している。本研究では、Atg7以外のオートファジー関連遺伝子がマスト細胞の顆粒の形成やその放出(脱顆粒)にどのように関与するかを明らかにすることを目的とする。マスト細胞を分化誘導する過程あるいはマスト細胞を脱顆粒させるなど刺激した際に発現に変化のみられるオートファジー関連遺伝子をPCR-array法にて網羅的に検討する手法を用いた。その結果、Atg9bやAtg8のホモログであるGamma-aminobutyric acid (GABA) A receptor-associated protein like 1 (GABARAPL1)などが有意に変動していた。マスト細胞の分化過程におけるこれら分子の発現に変動はあるものの、免疫組織染色を用いた局在の検討では、マスト細胞以外の細胞と思われる細胞に分布しているものもあり、分化過程のマスト細胞の顆粒形成におけるこれら分子の検討は手法的に困難であると考えられた。そこですでに成熟したマスト細胞をさまざまな刺激によって脱顆粒させ、その後の顆粒再形成におけるこれらの分子の役割について、siRNAを用いてこれらの分子をノックダウンしたマスト細胞を作成し検討している。Ayg9bやGABARAPL1の発現はマスト細胞をIgE抗体で刺激した後に上昇することを確認した。またこれらの遺伝子のノックダウンにより、マスト細胞の脱顆粒そのものに障害がでる場合と、マスト細胞を脱顆粒させて再び顆粒が再貯留する過程に障害があるものがあることを示唆する結果を得ている。
3: やや遅れている
当初、すでにメラノサイトのメラノゾームや腸管のPaneth細胞の分泌機能に影響が報告されているオートファジー関連遺伝子Atg18(WIPI1)、Atg16Lについて検討する予定であったが、shRNAでこれらの分子の発現を低下させたマスト細胞の分化の過程では著名な変化がみられなかった。そこで、マウスの骨髄由来のマスト細胞を分化誘導する過程(4-5週間)、すなわち顆粒形成の過程で発現に変化のみられるオートファジー関連遺伝子をPCR-arrayで網羅的に調べる方針に切り替えたためである。ところが、分化の過程で上昇のみられたいくつかのオートファジー関連遺伝子を免疫染色して調べた結果、分化の途中で上昇していると思われたAtg9の発現は、形態的にマスト細胞とは明らかに異なる細胞に発現していることが示唆された。すなわち、マスト細胞が分化してくる過程では、さまざまな細胞が細胞集団に含まれることから、マスト細胞に限って顆粒形成を評価するのが困難であると考えられた。そこで新たに成熟したマスト細胞で顆粒形成を評価する方法を再検討するところから始めたためである。
先に記したように、マスト細胞の分化の過程でのこれらオートファジー関連遺伝子がマスト細胞の顆粒形成に及ぼす影響をみるのは困難であると考え、すでに成熟したマスト細胞の顆粒を脱顆粒などの刺激で減少させ、再び顆粒が再形成(再貯留)する過程に関与するオートファジー関連遺伝子について検討している。さきにマスト細胞の分化の過程で発現変化のみられたオートファジー関連遺伝子は、マスト細胞を脱顆粒させることによっても発現が上昇することが明らかになった。このため、これら遺伝子を欠損したマウスマスト細胞の脱顆粒能や顆粒再形成能を中心に検討している。Atg9やGABARAPL1の欠損により、脱顆粒反応そのものが低下する場合と脱顆粒後の顆粒再貯留に影響する場合のあることを見出している。これらの機構にオートファジー関連遺伝子がどのように関連するか、脱顆粒後のAtg9、GABARAPL1やLC3-IIの局在を経時的に検討する予定である。さらにLC3-IIをポリクローナル抗体とモノクローナル抗体で染色した場合に、無刺激のマスト細胞と脱顆粒刺激したマスト細胞で発現が異なることを見出しているだけでなく、IgE抗体刺激とカルシウムイオノフォア刺激でLC3-IIの発現に違いがみられることも明らかとなった。今後、LC3-IIのマスト細胞刺激後の発現とそれらがマスト細胞脱顆粒後の顆粒の再貯留にどのように影響するか、さらにはそれらがAtg9やGABARAPL1の欠損によりどのように影響されるのかを中心に検討を進めていく予定である。
当初の計画より、in vitroにおけるマスト細胞の解析が遅れているため、当該年度に予定していたマウスを使ったin vivo実験にほとんど取りかかれなかったためである。またさまざまな顆粒異常をきたすマウスのマスト細胞を使った解析も遅れているためである。in vitroにおけるマスト細胞の解析のために必要なマスト細胞の培養に使用する試薬類は研究室で共同購入しているものも多く、大部分はそれらを使用したためもある。初年度の実験計画の結果が思わしくなかったことから、当初予定していたオートファジー関連遺伝子とは異なる遺伝子にターゲットを絞って解析することとなったことや、マスト細胞の分化過程ではなく、脱顆粒後の顆粒の再形成に焦点をあてた解析を中心とするin vitroの実験が主体となったためである。しかしながら、in vitroの解析でも、当初予定していたさまざまな顆粒異常をもつマウスからのマスト細胞の解析を予定しており、これらのマウスの導入や維持において、今年度未使用分を次年度に使用する予定である。
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J invest Deramatol
巻: 143 ページ: in press
doi: 10.1038/jid.2014.143