研究課題/領域番号 |
24591474
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
安田 琢和 独立行政法人理化学研究所, アレルギー免疫遺伝研究チーム, 研究員 (00373374)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | アトピー性皮膚炎 |
研究概要 |
本研究は、アトピー性皮膚炎の発症要因を「非免疫学的機序」と「免疫学的機序」との相互作用にあると捉え、この両機序の接点となるような因子、細胞について解析を行うことで、この疾患の発症機構の理解を目指している。平成24年度は、研究代表者の所属する研究チームにおいて樹立されたアトピー性皮膚炎を自然発症するモデルマウス(spadeマウス)を用い、皮膚炎発症に関わる細胞についての解析を行った。 アトピー性皮膚炎様の皮膚炎を発症したspadeマウスの耳組織に集積する細胞について免疫染色法で調べたところ、好酸球、好中球(Gr-1陽性細胞)、マクロファージ(F4/80陽性細胞)が皮膚の炎症部位から表皮にかけて増加していた。そしてこれらの増加していた細胞に加えさらに大きな増加が好塩基球(Mcpt8陽性細胞)に見られた。 次にこうした解析をより詳細に行えるように、未発症の背中皮膚部分に痒み誘導物質とされるPAR2 agonist peptideを投与し、皮膚炎発症を制御できる方法の開発を試みた。毛を除いた皮膚へのpeptide投与1回目の翌日から小さな掻き跡が見られはじめ、1日1回の3日連日投与後には、掻き跡は大きくなることが確認できた。この皮膚の組織学的な観察では、表皮、真皮の肥厚、細胞の集積などが見られ、炎症を誘導できていることが確認できた。 この方法で皮膚炎を誘導した背中皮膚で、皮膚炎発症に関わる細胞についての解析を行った。この結果、耳組織での解析と同様な細胞の増加が認められた。 これまでにも、アレルギー反応において好塩基球が大きな役割を果たすことは示されてきたが、アトピー性皮膚炎において明快に示した例は少ない。さらに、これまでは数が少なく反応の起点となるような役割が想定されていたが、今回十分な数の増加が見られたことで、好塩基球の新たな可能性を示す重要な知見となり得ると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究のテーマに掲げる、アトピー性皮膚炎の発症に関わる因子、細胞の解析に関して、平成24年度には細胞の解析について進めることができた。 また、解析ツールとして皮膚炎発症を制御できる方法の開発を進めることができた。この方法で皮膚炎を誘導した皮膚組織でも、自然発症した皮膚組織でと同様な炎症細胞が集積してきていることを確認できた。これによって自然発症の炎症組織と同様な状態を誘導により制御できることになり、時系列的にもより詳細な検討が進められるようになったと考えている。 アトピー性皮膚炎のモデルマウスであるspadeマウスの皮膚炎発症部位で、想定以上の好塩基球の浸潤を確認できた。このことは、皮膚炎発症への関与する細胞から好酸球やマクロファージを除外するものではないが、今後の皮膚炎発症に関わる因子の探索の際には始めに好塩基球に関わる因子からという方針を与えてくれている。このような結果が得られたことからも、おおむね計画通り順調に進展しているものと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度以降は、ここまでにアトピー性皮膚炎発症に関わる細胞として同定できた細胞について定量的な解析を進める。さらにアトピー性皮膚炎に関わる因子として、それらの細胞から産生される因子の同定と定量解析を行う。 アトピー性皮膚炎発症に関わる細胞については、細胞特異的中和抗体によるin vivo depletionもしくは、細胞欠損マウスを用いて、細胞を消去した際の皮膚炎発症の過程を詳細に解析することとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
アトピー性皮膚炎の発症に関わる細胞として好塩基球を同定したが、好塩基球を含め想定をしていた他の細胞よりも皮膚炎発症部位への浸潤細胞数が多かった。このことから、好塩基球が、アトピー性皮膚炎の発症により重要な役割を果たすものと考えた。 当初計画においてもモデルマウス体内から好塩基球を除去した場合の皮膚炎発症過程の解析を予定していたが、その方法は特異的中和抗体によるin vivo depletionで行う計画であった。一方、ここまでで得られた結果から好塩基球の重要度は高いと考えられたので、この細胞についてより詳細に解析できるよう遺伝的に好塩基球を欠損したマウスを使用した解析が相応しいであろうと計画の変更を考えた。 このような理由から、予定していた特異的中和抗体の準備を中止したため研究費の次年度使用額が生じた。この研究費は特異的中和抗体の代わりに用いる好塩基球欠損マウスの導入、維持に充てる予定としている。一方で、このマウスの導入には時間を要しているため研究費の使用年度を跨ぐこととなった。しかしながら、好塩基球欠損マウスの導入について目途は立っているので、研究の遂行に支障はないと考えている。
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