研究課題/領域番号 |
24591474
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
安田 琢和 独立行政法人理化学研究所, 統合生命医科学研究センター, 研究員 (00373374)
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キーワード | アトピー性皮膚炎 |
研究概要 |
平成25年度は、研究代表者の所属する研究チームにおいて樹立されたアトピー性皮膚炎を自然発症するモデルマウス(spadeマウス)を用い、皮膚炎発症に関わる細胞と因子についての解析を行った。特に時系列的に解析を行うために、昨年度開発した未発症の背中皮膚部分にPAR2 agonist peptideを投与することで皮膚炎発症を制御できる方法を使い行った。 peptideの投与によって、spadeマウスと同様にRAG1 KO-spadeマウスでも炎症を誘導することができた。このことから、この皮膚炎モデルの発症においてT細胞とB細胞の役割は小さいと示された。 また、peptide投与から経時的に皮膚サンプルを採取し各種因子のmRNAの発現とタンパクの産生を調べた。投与翌日から好塩基球マーカーとなるMcpt8のmRNA発現が増加し、同時にTSLP, IL-3の好塩基球を活性化させる因子、IL-4, IL-13のアレルギー反応に関与する因子、IL-6の創傷治癒に関わる因子の増加も認められた。タンパク産生量でも、同様な因子の増加が見られた。 比較のため、自然発症の耳組織についても、発症前から発症直後、その症状の悪化が進行している時期、で採取し同様に解析を行った。耳組織においては、IL-3, IL-4, IL-13は発症直後でタンパク量の産生が最も多く、IL-6は悪化が進行している時期での産生が最も多くなっていた。炎症誘導背中皮膚と自然発症耳部位とで、同様な因子の増加が見られることから、この皮膚炎モデルの発症には、好塩基球によるアレルギー反応が関わっていると考えられた。 さらに、この好塩基球については、経時的に所属リンパ節での細胞の定量を行った。好塩基球は、耳に自然発症の炎症が見られる数週間前から野生型に比べリンパ節全細胞中での割合、細胞数ともに多くなっていることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究のテーマに掲げる、アトピー性皮膚炎の発症に関わる細胞と因子の解析に関して、平成25年度には、細胞と因子の解析について進めることができた。 昨年度開発した、自然発症の炎症組織と同様な状態を誘導により制御できる方法を用いて、時系列的な検討を進めた。これにより、誘導により生じた皮膚炎症組織と自然発症の炎症組織とで同様な結果を得ることができた。本研究での解析に有用なツールの開発ができたものと考えている。 しかしながら、本研究でアトピー性皮膚炎の発症に関わると示された好塩基球をモデルマウスの体内から除去し皮膚炎発症過程を解析するという計画に関して遅れが出てしまっている。これは、より詳細に解析するために、遺伝的に好塩基球を欠損するマウスを導入し解析を行うという方法に当初計画を一部変更したのだが、思いの外マウスの繁殖効率が悪かったことによる。そこで、好塩基球を無くすという方法と平行して、好塩基球を加えるという戦略を考えている。このために好塩基球に標識が付いたマウスの導入を計画している。このマウスからは容易に好塩基球の単離が可能となり、細胞をマウス体内から「引く」に加え「足す」という両面からの解析が可能になると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでにアトピー性皮膚炎発症に関わる細胞として同定できた細胞についてさらに詳しく定量的な解析を進める。またアトピー性皮膚炎に関わる因子に関しても、産生する細胞を炎症性細胞と皮膚細胞(ケラチノサイト)のようにできる限りに分離し明らかにし、そうした細胞から産生される因子の同定と定量的な解析を行う。 アトピー性皮膚炎発症に関わる細胞については、細胞特異的中和抗体によるin vivo depletionもしくは細胞欠損マウスを用いて、細胞を消去した際の皮膚炎発症の過程を、さらには他のマウスから採取分離した細胞を加える等の手法を用い詳細に解析することとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
アトピー性皮膚炎の発症に関わる細胞として好塩基球を同定し、その好塩基球を遺伝的に欠損するマウスを使用した解析を計画していたが、このマウスの導入に遅れが生じ、さらにマウスの繁殖効率が思いの外悪かったことが重なり、準備に時間を要している。このため、このマウスを使った解析に予定していた分の研究費が次年度使用額として使用年度を跨ぐこととなった。 導入の送れていた好塩基球を遺伝的に欠損するマウスの繁殖も軌道に乗りつつある。また、このマウスでの解析の補強として、好塩基球に標識が付いたマウスの導入を計画していて、平成26年度に請求する研究費と合わせることで、しっかりとした解析が行えるよう準備を進めている。
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