研究実績の概要 |
侵襲性インフルエンザ菌感染症(IHD)患者由来の血液や髄液から検出されたインフルエンザ菌b型(Hib)株を対象に、ワクチン接種歴のある小児の発症(ワクチン不全)との関連性が報告されているcapb遺伝子重複に関する調査研究を実施し、今後のヒブワクチン計画の策定において有用な提言を国内外に発信することを目的とした。 平成21~23年度の我々の研究で、鹿児島県内で発生したIHD患者由来株を対象にcapb遺伝子重複を調査したところ、ワクチン導入前後で増加傾向(2008年以前9.5%、2009年以降23.1%)を認めたことから、ワクチン不全の患者発生が強く懸念され、国内外の学会で報告した。 その後、さらにHib株を収集して調査を進めていく計画であったが、ヒブワクチン導入によりHib髄膜炎が全国的に激減し、菌株収集が困難となった。われわれを含む厚労省研究班「庵原班」の調査結果で、全国10道県における5歳未満人口10万人当たりのHib髄膜炎の罹患率は、平成20~22年7.7人から、平成25年0.3人(減少率96%)、平成26~27年0人(減少率100%)へと激減した。鹿児島県でも平成25年以降は0件となった。また、全国的にワクチン不全の報告も認めていない。 一方、Hibに替わって、無莢膜型インフルエンザ菌(nontypable Haemophilus influenza, NTHi)による小児侵襲性感染症が漸増していることが、「庵原班」の調査で明らかになり、NTHi病原性を評価する必要が出てきたことから、侵襲性感染症由来NTHi 15株、呼吸器由来NTHi 30株、Hib 16株のバイオフィルム形成能やNTHi付着遺伝子の分布を検討した。結果、バイオフィルム形成能は侵襲性感染症由来株で高かったが、有意差はなかった。NTHiの付着遺伝子は、線毛遺伝子と付着タンパク質遺伝子hiaの頻度が、呼吸器感染症由来NTHiで有意に高かったが、hmwとhapは差がみられなかった。今後さらに、NTHiの詳細な病原因子の解明を進めてゆく予定である。
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