研究概要 |
リケッチア感染症の重症化例にはマクロファージの過剰な活性化を背景とするHPS (hemophagocytic syndreome)があることが知られる。HPSはサイトカインの過剰産生を伴うSIRS (systemic inflammatory response syndrome)の一症候として顕在化する。2013年に存在が明らかとなったダニ媒介性新興感染症・重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)も同様の機序で重症化することが明らかとなった。 国内で臨床経過が確認でき、急性期と回復期それぞれの血清にて血中サイトカイン濃度を測定することのできた32例のつつが虫病と、21例の日本紅斑熱を比較検討した。急性期のTNF-α, IL-6, INF-γ, IL-8, IP-10, MCP-1, MIP-1αおよびMIP-1βは、いずれも日本紅斑熱においてつつが虫病より優位に高値を呈していた。一部のサイトカイン(IL-6, IFN-γ, IL-8, IP-10, MIP-1α)では平均値が3倍を超えて高値を示した。このことより、つつが虫病に比し日本紅斑熱が重症化する背景には急性期の高サイトカイン血症が関与することが推測された。 ダニ媒介性感染症を救命するためには、早期診断とともに、原疾患である感染症の治療に加え、急性期の高サイトカイン血症の制御が重要な治療ターゲットとなると考えられる。テトラサイクリン系抗菌剤は、リケッチア感染症においては抗リケッチア活性を有するとともに、単球・マクロファージ系細胞におけるサイトカイン産生を制御する機能を有すことをこれまで著者らは報告してきた。今回の研究結果より、基礎的研究から推測されたリケッチア感染症におけるテトラサイクリン系抗菌剤の有効治療のメカニズムが、本抗菌剤の有する抗菌活性とサイトカイン制御の2面性にあることが示唆された。
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