国内発症のリケッチア症の現状は、近年、毎年つつが虫病が年間約400症例の届け出がなされているが、日本紅斑熱は2014年には200例の報告を超え、急速な患者の増加が確認された。紅斑熱群リケッチア感染症では病原体種の多様化も認められ、地域の広がりも確認されている。福井県では、これまでR. helvetica感染が明らかにされてはいたが、2014年に初めて真正の日本紅斑熱(R. japonica感染)を確認した。代表研究者が事務局長を務める日本リケッチア症臨床研究会では、国内発症症例において、治療に対する難反応性症例の存在も確認している。病初期からのニューキノロン系薬剤とテトラサイクリン系薬剤の併用により治療が行われた例に成功例が多く確認された。 リケッチア症の重症化の回避には異常活性化したサイトカイン産生の連鎖(サイトカイン・ストーム)を遮断することが重要であり、各種サイトカインのシグナル伝達系に及ぼす抗菌薬の作用を検討した。doxycyclineがリンパ球系細胞(CCRF-CEM細胞)においてMMP-3を抑制することにより、アポトーシスを誘導する現象が確認されたり、THP-1細胞においてminocyclineがNFκBを介するTNF-αの産制を抑制することをこれまで示してきたが、LPSにより刺激された単球系細胞(THP-1細胞)に生ずるオートファジーをテトラサイクリン系薬剤(minocycline)や新規グリシルサイクリン系薬剤(tigecycline)において抑制することを見出した。リケッチア感染症にテトラサイクリン系抗菌剤が著効するメカニズムについて、アポトーシスおよびオートファジーを介する炎症の制御に同薬剤が影響を与えていることが推測された。また、本研究により、tigecyclineの臨床応用の可能性が示唆された。
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