研究課題/領域番号 |
24591485
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
吉村 和久 国立感染症研究所, エイズ研究センター, 室長 (60315306)
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キーワード | HIV-1 / gp120 / Envelope / CD4 mimic |
研究概要 |
25年度は、昨年度に引き続きHIV-1 Subtype Non-B株のCD4 cavityに結合し、侵入を阻害するだけでなく立体構造変化を惹起する可能性の高い低分子化合物の設計、合成を行うことを主たる目的として研究を継続して行った。これまで数多くスクリーニングしてきたNBD骨格とは違うが、Envに結合し同様に侵入阻害および構造変化を起こす化合物の候補としてベツリン酸誘導体(BA誘導体)を試し、Subtype B同様、 C及びBCの感染阻害効果が認められるBA誘導体(IC9564)を確認できた。また、CD4を形成する4つのドメインのうちgp120と結合する1つのドメインのみを用いた蛋白(mD1.22)を得るため、新たにベクターを構築した。これらのEnv結合化合物や蛋白誘導体が、non-B HIVにおいても立体構造変化を起こすかどうかを26年度は詳細に検討する予定である。一方で、Subtype non-BのHIV-1株を臨床サンプルから分離する試みも進行させている。申請者らは、簡便にしかも確実にR5ウイルスを分離するために、CCR5高発現T細胞株であるPM1/CCR5細胞を用いてウイルス分離を行う方法を確立している。このウイルス分離の系を用いて、現在まで60以上のsubtype B及びnon-Bの臨床分離株を樹立してきた。今後も広範囲のSubtype non-BのHIV-1臨床分離株を樹立し、広い範囲の臨床分離ウイルスパネルを構築することを引き続き行っていく。これらのパネルウイルスを用いて、合成した新規CD4 mimic低分子化合物や蛋白に対する感受性を比較検討し、より広範囲なSubtype non-B株に反応する化合物の選定を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
25年度は、NBD意外の候補物質の中から検索したベツリン酸誘導体(BA誘導体)のIC9564が、subtype B、Cだけでなく、現在中国で広く感染が広がっているsubtype BC株にも効果があることがわかったため、これをもとにした新たな誘導体の開発を続けている。その中には、IC6564より10倍以上強力な抗HIV作用を持つものも見つかってきている。今後より多くの臨床分離株で、効果を試していく予定にしている。また、CD4を形成する4つのドメインのうちgp120と結合する1つのドメインのみを用いた蛋白(mD1.22)が抗HIV効果のみならず抗体をエンハンスする可能性が示唆されている。現在ベクター構築が終了し蛋白の精製及び確認実験に入るところである。本研究の目標の一つである新たなCD4類似化合物の選定という意味では、より広い株に有効なものが新しいリードコンパウンドの誘導体および、CD4を小さくした蛋白から見つかった事からすると当初の目標以上の達成度と考えている。臨床分離株の樹立の点でも本年度の目的は達成できているといえる。ただし、25年度中に開始する予定であったin vitroの耐性誘導は、新たな化合物の選定が本年度ぎりぎりまでかかったため、次年度に繰り越しとなった。この点は、本年度も到達できなかった部分であった。 また、臨床分離株の樹立も現在進めており、現時点で60株以上の日本人に感染しているsubtype B及びnon-B(C,BC,AE,G)の臨床分離ウイルスを樹立してきた。現在も、分離を続けており3桁まで届くようにサンプルの収集を継続中である。この点では予定通りに進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
26年度は、引き続きNBD誘導体をスクリーニングし、Sub CをBと同等に侵入阻害する誘導体の検索を行う。また、新たに見つけ出したNBD骨格以外のEnvに結合し同様に侵入阻害および構造変化を起こすベツリン酸誘導体(BA誘導体)のIC9564及びその誘導体(LH-55 etc.)をリードコンパウンドとして引き続きCD4類似化合物の探索を行う。IC9564及び、より有効なBA誘導体が開発できればそれらを用いて、またgp120と結合する1つのドメインのみを用いた蛋白(mD1.22)を用いて、Subtype C株のR5ウイルスの逃避ウイルス誘導を試みる。この時用いる細胞は、CCR5高発現T細胞株のPM1/CCR5細胞である。この細胞は、R5でもX4でも合胞体形成が見られるため、ウイルスの継代の時期の特定が簡便であるという特徴を有している。In vitro耐性誘導実験により得られた耐性ウイルスを用いて、その耐性度をPM1/CCR5細胞を用いたWST-8 assayにより判定する。高度NBD耐性ウイルスの誘導が確認できた後、これらのウイルスのEnvのシークエンスを行う。その結果より、逃避能付与責任変異部位の特定を行い、これらの同定された責任部位をsite-directed mutagenisis法により変異エンベロープを持つpseudotype ウイルスを作製し、構造と機能の相関関係を推測し、より広範囲に反応する新規CD4類似化合物の開発につなげる。臨床分離株の樹立は随時進めていく予定で、今後はより最近感染した症例からsubtype B及びnon-Bの臨床分離ウイルスを樹立していきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、使用する臨床分離株および候補薬剤の数を増やし、スクリーニングを多元的に行っていく予定であり、かつ、シークエンスを含めた解析サンプルの大幅な増加を予定しているため、本年度よりも消耗品の使用の増加を予定し、本年度の研究費の一部を次年度に使用することにした。内訳としては殆どが消耗品費の予定である。 1)新規化合物の合成のために使用する原材料費。2)耐性誘導のための細胞の継代等のために必要となる細胞培養液、各種プラスチック容器や抗生物質。3)シークエンスを行うために必要な試薬及び外部委託する場合の費用。4)FACSを行うために使用する各種抗体やシース液等の消耗品。今年度の研究を遂行するために、以上の物品購入が必要と考えている。
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