研究課題/領域番号 |
24591489
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
趙 維華 昭和大学, 医学部, 講師 (90327916)
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研究分担者 |
胡 志青 昭和大学, 医学部, 准教授 (60245826)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | グラム陰性桿菌 / 薬剤耐性遺伝子 / インテグロン / PCR分析 / DNAシークエンス解析 |
研究概要 |
インテグロンとは、細菌が持つ外来の遺伝子を取り込んでそれを強力に発現させる遺伝子構造であり、トランスポゾン、プラスミドと染色体DNA上を頻繁に転位する。その故、インテグロンに獲得した耐性遺伝子が容易に菌間で伝達される。インテグロンはグラム陰性菌に広く存在し、耐性遺伝子を持つインテグロン-1は91菌属に属する189菌種から確認されている。特に46%の腸内細菌科の菌株がインテグロン-1を保有しており、環境中に広く分布している。インテグロン-1が持つ耐性遺伝子の種類、数と並び方は様々であり、この多様性は異なる起源と獲得の経路を示唆している。 我々は、昭和大学病院をはじめ、複数の病院で保存されてきた薬剤耐性グラム陰性菌の臨床分離株と臨床資料を収集し、薬剤感受性、薬剤耐性の伝達性、およびPFGEパターンを分析した。インテグロン-1の基本構造を基づいて、その5'-CSと3'-CSの配列に相補的な一対のプライマーを設計し、そのプライマーが挟む全ての遺伝子をPCR法で増幅した。続いて、そのPCR産物のDNA配列を解析し、遺伝子の種類およびその並び方を解明した。この分子疫学的手法を用いて、大腸菌と肺炎桿菌からblaIMP-11耐性遺伝子が検出された。また、この方法によってインテグロン関連のblaIMP-11耐性遺伝子の病院内定着と伝播を確認した。従って、インテグロンを分子疫学のマーカーとして利用し、耐性遺伝子の検出、新たな耐性遺伝子の発見、院内感染の起源と感染経路の究明、院内感染症の診断、および治療薬の選択等で実用化できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画は、長年の研究で確立した技術と知識を生かして、インテグロンを多剤耐性菌の同定における新たな分子疫学のマーカーとして樹立させるのを目的とする。そして、多剤耐性菌と耐性遺伝子の検出、新たな耐性遺伝子の発見、感染経路の究明、耐性菌動向の予測、治療薬の選択および院内感染対策の制定等でこの方法の臨床実用化を図る。 今までの研究で、インテグロンによる耐性遺伝子の検出に成功し、腸内細菌科の菌にもblaIMP-10耐性遺伝子、大腸菌や肺炎桿菌にもblaIMP-11耐性遺伝子が存在していることを初めて確認した。また、この分子疫学的手法を用いてインテグロン関連のblaIMP耐性遺伝子の病院内定着と伝播をサーベイランスすることが有効であると確認した。これらの研究結果をまとめた原著論文と総説をJournal of Medical MicrobiologyとCritical Reviews in Microbiology等の雑誌に発表した。
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今後の研究の推進方策 |
1. 供試菌株とその臨床資料の収集・薬剤感受性試験・メタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)産生能の確認: 複数の病院から分離された耐性グラム陰性菌とその詳細資料を収集し、微量液体希釈法を用いて各菌株に対する種々の抗生物質の最小発育阻止濃度を測定し、薬剤感受性パターンを確認する。特異的な抑制剤(メルカプト酢酸ナトリウム)を利用したディスク拡散法によって、MBL産生菌をスクリーニングする。 2. DNA抽出・PFGE解析: 耐性菌からDNAを抽出した。同種の菌株間における薬剤感受性パターンとMICが類似している場合、PFGE解析によって、同じ耐性株による院内感染者であるか否かを確定する。 3. 耐性遺伝子の伝達: E. coli HB101とE. coli JM109をレシピエントとして用い、接合と形質転換による耐性遺伝子の伝達性を検証する。 4. PCRによるインテグロンの増幅・PCR産物のDNA配列解析・耐性遺伝子及びその並び方の解明: インテグロン-1に共通する遺伝子配列、即ち、5’-CSにあるインテグラーゼ-1遺伝子 (intI1) と3’-CSにあるqacE△1に相補的な一対のプライマーを設計し、そのプライマーが挟む遺伝子をPCR法で増幅する。目的のPCR産物を抽出キットで精製し、DNA配列解析を行う。専用ソフトウェア (DNASIS Pro) を用いてシークエンスデータを解析し、データベース (GenBank) との照合によって耐性遺伝子の種類とその並び方を解明する。 5. シークエンスデータの解析を中心に、同定された多剤耐性遺伝子と臨床資料を合わせて基礎データ庫を構築する 。
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次年度の研究費の使用計画 |
1. DNA抽出キット、PCR用試薬、プライマー合成、DNAシークエンシング等消耗品費用約160万円を必要とする。 2. 薬剤耐性における国際学会やシンポジウムに参加し、研究成果を世界に向けて発信するために、旅費約25万円を必要とする。 3. 論文掲載料や別刷り代等約15万円を必要とする。
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