研究実績の概要 |
本年度の研究で、我々は、インテグロン-1をターゲットとして、MBL耐性遺伝子の検出を行った。 獲得型のメタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)には、IMP, VIM, NDM, SPM, GIM, SIM, DIM, KHM, TMB, FIM, AIMの11タイプが同定されている。この内、IMP、VIM、GIM、SIM、DIM、TMBをコードする耐性遺伝子はインテグロン-1に取り込まれており、強力に発現される。我々は、複数の病院から80株のMBL産生グラム陰性細菌(7菌種)の臨床分離株を収集し、DNAを抽出した。インテグロン-1の5'-CSと3'-CSの配列に相補的な一対のプライマーを設計し、そのプライマーが挟む全ての遺伝子をPCR法で増幅した。この内、76株から、2300 bp~ 4000 bp DNA断片を得られた。即ち、95%以上のMBL産生グラム陰性細菌株がインテグロン-1を保有していると分かった。さらに、PCR産物のDNA配列解析を行い、そのDNA配列とNCBIの核酸データベースを照合して、耐性遺伝子の種類とその並び方を解明した。その結果、76の菌株から、MBLをコードするblaIMP-1、blaIMP-7、blaIMP-10、blaIMP-11、blavim-2遺伝子がインテグロン-1内に確認された。さらに、β-ラクタマーゼのほかに、アミノグリコシドを修正する酵素をコードする耐性遺伝子であるaac(6')Iae、aac(6')II、aacA7、aacC4、aadA1、aadA2、aadA6もインテグロン-1内に検出された。即ち、MBLと他の数種類の耐性遺伝子が共存していることが分かった。特に、intI1-blaIMP-1-aac(6’)IIc-qacEΔ1の構造は39% (30/76)のMBL産生グラム陰性細菌株から確認された。この構造を持つ菌株(C. freundii, E. coli, E. cloacae, K. pneumoniae, K. oxytoca, S. marcescens)は異なる病院・時期から分離された。即ち、この耐性構造の病院環境内での定着を示している。 以上の結果から、インテグロン-1をターゲットとするこの分子疫学的手法は、耐性遺伝子の病院内の定着と伝播をサーベイランスすることに貢献できると考えられる。
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