研究課題/領域番号 |
24591493
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
浮村 聡 大阪医科大学, 医学部, 教授 (50257862)
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研究分担者 |
神崎 裕美子 大阪医科大学, 医学部, 講師 (80445999)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 心筋炎 / インフルエンザ |
研究概要 |
インフルエンザウイルスは心筋への親和性は高くないが、我々の日本の疫学調査ではパンデミックにおいては心筋炎の合併率が上昇することが示唆された。本研究の目的はインフルエンザの合併症として頻度は低いが発生した場合は重篤である心筋炎について、その遺伝的素因による病像の相違の有無、発症機序の検討、ならびに有効な治療法の検討を行うことにある。治療薬としては抗インフルエンザ薬およびRAS系抑制薬について検討する。RAS系抑制薬には抗ウイルス効果はないが、抗炎症効果、特にインフルエンザ心筋炎において重要と考えられる血管内皮機能の改善効果が期待される。 方法:複数の系のマウスに季節性インフルエンザウイルスAならびに今回大流行したインフルエンザウイルスA(H1N1pdm2009)を経鼻接種し感染を惹起させた。マウスは非治療群、抗インフルエンザ薬投与群およびRAS系抑制薬投与群に分け、死亡率と心臓の収縮能を検討した。また麻酔下で肺、心臓を摘出し、組織学的検討ならびに組織内のサイトカイン等炎症に関与する因子のmRNA発現の程度についても検討を行った。 心臓の組織学的検討では心筋炎病変は心外膜下と血管周囲に限局し、リンパ球浸潤が主体であった。心臓組織中のウイルス量を定量的PCR法で評価したが、ウイルス量は肺に比して非常に少なかった。ノイラミニダーゼ阻害薬(ペラミビル)投与群ではマウスの死亡は抑制された。RAS系抑制薬は死亡の抑制は認めなかった。心機能の評価ではインフルエンザ感染マウスでは左心室径の拡大と収縮力の低下を認めた。ノイラミニダーゼ阻害薬投与により心機能低下は抑制され、組織内ウイルス量も少なかった。RAS系抑制薬はウイルス量を抑制せず、FSを改善した。従って抗インフルエンザ薬およびRAS系抑制薬は異なる機序によりインフルエンザ心筋炎を抑制する可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
心臓に親和性の高いとは考えにくいインフルエンザウイルス感染にて、血管内皮機能障害が心筋炎の発症機序ではないかという我々の仮説の検証を行うために、血管内皮障害に関与するとされる酸化ストレス、凝固因子、接着因子、メタロプロテアーゼ、増殖因子、炎症性サトカインなどについて検討することが平成24年度の計画であった。またRAS系薬がインフルエンザ心筋炎の内皮機能障害を軽減するという仮説も同じく検討課題であった。免疫応答が異なると考えられる複数の系の近郊系マウスを用い、木戸らの報告にあるようにインフルエンザウイルスIAV(H1N1)を経鼻接種し感染させ心筋炎を惹起させ検討した。また平成24年度にはウイルスは今回の新型インフルエンザウイルスIAV/H1N1/2009pdmとIAV/PR8/34(H1N1)により同様の検討を行い、ウイルスとホストの違いについて検討することを計画していた。 マウスの心臓の組織学的検討では心筋炎病変は心外膜下と血管周囲に限局し、リンパ球浸潤が主体であった。ウイルスの違いとしてはIAV/H1N1/2009pdmにおいて特に病変が強いという結果は得られていない。またBalb/cマウスにて、軽度ではあるが比較的安定して心筋炎病巣を認めた。治療としては、インフルエンザウイルス感染という原因に対する治療としてのノイラミニダーゼ阻害薬の効果の検討では早期の投与により十分な効果が示された。血管内皮機能障害の予防や抗酸化ストレス効果などの多面的効果を持つとされるRAS系抑制薬の有用性については限定的なものである可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今後の検討課題を以下に示す。 1. 日本循環器学会による新型インフルエンザ心筋炎の後ろ向き研究では全例に抗ノイラミニダーゼ薬が投与されていた。臨床研究でヒトの心筋炎に対する抗ノイラミニダーゼ薬の効果を調査することはその重症度から倫理上認容されるものではない。 従って動物実験でこの検討を行うこと、特に心臓超音波検査を用いて臨床に近い形で評価をすることは非常に意義深いと考えられる。今回の検討では感染当日からのノイラミニダーゼ阻害薬の投与については十分な効果が示された。しかし実臨床ではインフルエンザの症状が発現し、迅速キットでインフルエンザ感染が証明される発症後12時間から48時間後に薬剤が投与されるのが通常である。従ってノイラミニダーゼ阻害薬が感染後何時間後まで十分な効果を有するかは重要な検討課題と考えられる。マウスのインフルエンザ心筋炎の病像、組織学的検討、血管内皮障害に関与するとされる酸化ストレス、凝固因子、接着因子、メタロプロテアーゼ、増殖因子、炎症性サトカインなどについて検討する。それぞれの個体において、心機能、組織所見、心臓におけるウイルス量、サイトカインや接着因子の発現量について肺におけるそれぞれとの比較、検討を行う。 2. RAS系抑制薬の有用性については今回の実験モデルでは限定的なものである可能性が示唆された。そこでRAS系抑制薬とノイラミニダーゼ阻害薬の併用効果についても検討する。検討方法は前記に準じる。 3.血管内皮機能障害をおこしやすいと考えられる糖代謝や脂質代謝に異常を有するマウスを用いて検討を行う。検討方法は前記に準じる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は引き続きマウスのインフルエンザ心筋炎の病像、組織学的検討、血管内皮障害に関与するとされる酸化ストレス、凝固因子、接着因子、メタロプロテアーゼ、増殖因子、炎症性サトカインなどについて検討する。血管内皮機能障害をおこしやすいと考えられる糖代謝や脂質代謝に異常を有するマウスを用いて検討を追加する。それぞれの個体において、心機能、組織所見、心臓におけるウイルス量、サイトカインや接着因子の発現量について肺におけるそれぞれとの比較、検討を行う。また非治療群、薬剤投与群においての比較検討を行う。 この計画のための予算の執行について、まず物品費としてRNA抽出時に使用する冷却遠心装置(エッペン用)が経年変化のため故障し部品がないため、新しい冷却遠心装置を購入する。消耗品としてマウス、ウイルス培養用試薬、分子生物学的検索のための試薬の購入を予定している。
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