研究概要 |
本研究の目的は、本邦において、臨床的に問題となっている beta-lactamase-negative ampicillin-resistant (BLNAR)株などの薬剤耐性菌を含めたインフルエンザ菌の難治化の要因を薬剤耐性、細胞内寄生およびバイオフィルムのそれぞれについて、どの程度難治化の要因となっているかを解析し、かつ治療戦略をたてることである。 2006 年 7 月から 2011 年 6 月までに、小児急性中耳炎患者74名より分離された74株のインフルエンザ菌株の内、繰り返し中耳炎が発症した患者(再燃患者)から分離されたBLNAR 株である Ok-9, Ok-30, 及び Ok-80株を用い、解析を行った。薬剤感受性試験結果では、Ok-9, Ok-30, 及び Ok-80 株に対し、エリスロマイシン、セフジニル及びトスフロキサシンの最小発育阻止濃度(μg/ml)はそれぞれ 0.5, 1, 0.03、 4, 0.5, 0.03 及び 0.125, 0.5, 0.03であった。バイオフィルム産生については Ok-9, Ok-30, 及び Ok-80 株において、OD600値の平均がそれぞれ 2.34, 0.81, 0.68であった。一方、この3株とも細胞内寄生株と判明され、平均細胞内侵入率はそれぞれ 2.9%, 5.44%, 1.86%であった。上記の結果より、これらの菌株は強いバイオフィルム産生能を示し、同時に高い細胞内侵入性を有することが示唆された。また、in vitro での人気道上皮細胞への感染実験を行い、また上記の菌株を対象とし、トスフロキサシンの投与を行い、抗生剤による菌体の変化を focused ion beam (FIB/SEM) システム(Quanta 3D FEG, FEI)を用いて観察した。結果として、人気道上皮細胞表面上の菌だけではなく、細胞内侵入していた菌株も菌体の変形や破裂などの著しい形態変化像が観察された。
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今後の研究の推進方策 |
今後、Ok-9, Ok-30, 及びOk-80菌株を用いたin vitroでの人気道上皮細胞への感染実験を行い、Confocal laser scanning microscopy (CLSM) や FIB/SEM システムで感染実態を総合的に観察する。また、in vitro で人気道上皮細胞へ感染させた後に、新たに小児中耳炎の治療薬剤として承認されたキノロン系抗生物質トスフロキサシンを含めた各種抗生物質を添加し、どのタイプの抗生物質をどのように投与すれば殺菌効果が高いかを培養検査で解析するとともに、FIB/SEMシステムを用いて、インフルエンザ菌側における形態変化などの比較検討を行う。以上の実験データを総合的に評価し、難治例と非難治例より得られた菌株間で、薬剤耐性、細胞内寄生およびバイオフィルム産生について比較検討し、難治化の要因の解析を行なった上で治療戦略をたてる予定である。
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