研究課題
基盤研究(C)
早期発症てんかん性脳症は、乳幼児期に発症し頻回のてんかん発作に伴い知能障害や運動障害をきたす難治性疾患であり、新生児期発症の大田原症候群や乳児期発症のウエスト症候群が代表的な疾患である。予後が良好な家族性の特発性てんかんについてはイオンチャネルの遺伝子変異が数多く同定されたが、てんかん性脳症は孤発例が多く原因解析は進んでいなかった。我々は、ARXが脳形成異常とウエスト症候群、大田原症候群の原因遺伝子であることを明らかにし、さらに大田原症候群の原因としてSTXBP1を同定した。しかし原因不明例もまだ多い。本研究では、最近の遺伝子解析技術であるHRM(高感度融解曲線分析)法による既知遺伝子のハイスループット変異スクリーニングと次世代シークエンサーによる網羅的解析を組み合わせた新規原因遺伝子の同定と効率的な遺伝子診断システムの構築を目的とする。本年度は、HRM法やSanger法によってARX変異とSTXBP1変異を除外した大田原症候群12例に対し次世代シークエンサーを用いた全エクソームシークエンスを行い、3例にKCNQ2のミスセンス変異を同定した。いずれも両親に変異を認めずde novo変異であった。3例とも新生児早期に全般性の痙攣発作をきたし、脳波はサプレッション・バーストを示した。7歳の2症例は重度から最重度の精神遅滞を併発した。KCNQ2は電位依存性カリウムチャネルKv7.2を構成し、1998年に良性家族性新生児痙攣の原因遺伝子として報告され、良性てんかんの原因と考えられていた。我々と同じく今年度ベルギーとオーストラリアのグループが新生児期に発症し重度の神経症状を呈するてんかん性脳症でKCNQ2変異を報告している。本研究によって、KCNQ2は大田原症候群の第三の原因遺伝子であり、良性てんかんとてんかん性脳症の原因が共通することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本研究計画は、研究年度全体を通してI.症例集積・臨床情報解析を行い、平成24年度にはII.HRM法による既知遺伝子の変異スクリーニングとIII.次世代シークエンサーによる新規病因候補遺伝子の選定を行うことであった。I.症例集積・臨床情報解析については年間50例の集積を目標とし、67例(大田原症候群17例、ウエスト症候群27例、その他23例)のDNAと臨床情報が集積された。II.HRM法による既知遺伝子の変異スクリーニングについては、新規症例に対してARX,STXBP1,SPTAN1,CDKL5, SLC25A22の5遺伝子のスクリーニングを行い、既有症例を含めJNK3, PLCB1のスクリーニングを行うことを目標とした。HRM法でSTXBP1変異を1例に同定し、またARX変異を1例に同定した。III.次世代シークエンサーによる新規病因候補遺伝子の選定早期発症てんかん性脳症の原因遺伝子を新たに一つ以上同定することを目標とした。大田原症候群の第3の原因遺伝子としてKCNQ2を新たに同定し、目標は達成された。
症例を増やして次世代シークエンサーによる網羅的な遺伝子解析を引き続き行ない、新規病因遺伝子を同定する。症例集積は当初の計画以上に進展しており問題はない。今年度新たに同定されたKCNQ2については、早期発症てんかん性脳症におけるKCNQ2の変異頻度と表現型を明らかにするために、大田原症候群50例と他の早期発症てんかん性脳症150例についてスクリーニングを行う。KCNQ2以外の既知遺伝子は当初計画した7個の遺伝子以外にも、今年度、乳児移動性部分てんかんの原因遺伝子としてKCNT1が同定されるなど、20個異常の候補遺伝子が存在する。HRM法は少ない遺伝子数を調べるには費用対効果の高い遺伝子変異スクリーニング法であるが、調べるエクソン数に比例して、費用と労力が増加してしまう。次世代シークエンサーの解析費用は急速に低下しており、選択した数十個の候補遺伝子のみを解析するカスタムキャプチャー法では、多数検体の一括処理を行うことができるため、遺伝子(もしくはエクソン)1個あたりの費用対効果はHRM法をしのぐようになりつつある。次年度は次世代シークエンサーによるカスタムキャプチャー法を併用して網羅的な変異スクリーニングを行う予定である。
該当なし
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