研究課題/領域番号 |
24591504
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
大山 建司 山梨大学, 医学工学総合研究部, 医学研究員 (80051861)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 抗ミュラー管ホルモン / 抗ミュラー管ホルモン受容体 / セルトリ細胞 / 精子形成 / 生殖細胞 / アンドロゲン受容体 / 精巣 / 性成熟 |
研究概要 |
本研究の目的は未成熟期に高濃度で分泌されている抗ミュラー管ホルモン(AMH)の生理作用を明らかにすることである。実験に必要なAMH抗体、AMH受容体(AMHR2)抗体を作成した。精巣遺伝子発現量は全て49日齢精巣発現量を基準(1.0)として示す。 ラット精巣のAMHは、5日齢で15倍と高発現しており、10日齢で減少した後、21日齢で再度15倍と高発現し、その後35日齢にかけて減少する。これはヒトと類似した加齢変動である。AMHR2は5日齢では低発現で、その後増加し21日齢で1.5倍発現する。このAMHR2の変動は今回初めて明らかにした。アンドロゲン受容体(AR) は5日齢から35日齢までほぼ一定で1.5倍発現していた。精巣から分離したセルトリ細胞においても5日齢からARが発現していることを確認した。7-35日齢までHCG/FSHを皮下投与すると、対照群精巣に比しAMH発現は減少し、精子形成は進行した。21日齢で下垂体摘出したラット精巣のAMH発現量は49日齢でも21日齢と同等の高発現であった。このラットにHCGを14日間投与しテストステロン分泌を増加させてもAMH発現は減少せず、HCG/FSH投与により減少した。この間AMHR2発現は大きな変動を示さなかった。 21日齢ラット精巣をAMHR2抗体で免疫染色すると、精祖細胞と前期精母細胞、セルトリ細胞でAMHR2が陽性となった。後期精母細胞では陰性であった。未成熟精巣の生殖細胞にAMHR2が存在することを初めて明らかにした。5日齢から21日齢までAMHR2抗体を皮下投与すると、21日齢精巣で精子形成が軽度進行した。 以上の結果は、AMHが未成熟ラット精巣の生殖細胞にAMHR2を介して直接作用していることを示しており、この時期の精子形成の進行を抑制している可能性を示唆していると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
未成熟期に高濃度で分泌されている抗ミュラー管ホルモン(AMH)の生理作用は現在全く不明である。胎児期のAMHは、ミュラー管退縮という抑制性のホルモン作用を示すことから、出生後も同様の作用を有すると考え、本研究では未成熟期の精子形成の進行を抑制していると仮説を立て、実験を計画した。AMHノックアウト動物の作成は性分化異常をきたすため、発現制御を組み込まないとならないため、技術的に困難である。そこで最初にラットがヒトのモデルとなるかを明らかにするため、出生から成熟期に至る精巣でのAMH発現を検討し、同様に変動することを確認した。同時に授乳期精巣で抗ミュラー管ホルモン受容体(AMHR2) 発現が増加し、AMHが精細管内で効果を発揮していることを初めて確認した。 ラットの性成熟は28日齢頃から始まり49日齢では精子が出現し生殖能を獲得する。AMH効果を阻害するためAMH抗体、AMHR2抗体を作成した。7-21日齢に抗体を投与してAMH作用を抑制すると、精子形成の軽度の進行が見られた。また21日齢精巣の前期精母細胞がAMHR2を発現していることを初めて明らかにした。これまでAMHR2はセルトリ細胞、ライディヒ細胞に発現すると報告されていたため、AMHの作用はセルトリ細胞の成熟抑制と推測していたが、今回の結果はAMHがAMHR2を介して精母細胞に直接作用していることを示すもので、生殖細胞の成熟を抑制している可能性を強く示唆している。当初計画していなかった生殖細胞内でのAMH情報伝達系を検討することにより、AMHの作用をさらに明確にできると考えている。 AMHは未成熟セルトリ細胞から分泌され、AMHR2を介してライディヒ細胞、セルトリ細胞、生殖細胞に作用するネットワークを形成していることを明らかにし、今後の研究の方向性を明確にした。
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今後の研究の推進方策 |
1. AMHR2の精祖細胞、前期精母細胞内での発現が、未成熟期に特異的か否かを確認する。各日齢の精巣から精細管と間質を分離し、さらにセルトリ細胞と生殖細胞を分離して、これらの細胞でのAMH、AMHR2発現を検討する。特に、生殖細胞におけるAMHR2の発現に関しては、定量PCR、ウェスタンブロティング、免疫染色によって確認する。同時に未成熟セルトリ細胞、成熟セルトリ細胞に特異的に発現している遺伝子とAMH、AMHR2、アンドロゲン受容体の発現との関連を検討する。また、AMHR2を高発現している細胞を用いて細胞内情報伝達系を検討する 2. 新たに購入するラットリコンビナントAMHの生物活性を確認し、活性が確認できれば、精巣内投与により精子形成の進行抑制を検討する。未成熟セルトリ細胞から分泌されるAMHを介してセルトリ細胞、ライディヒ細胞、生殖細胞がネットワークを形成しているとするならば、それは精巣成熟抑制に関連している可能性があり、性成熟全体の抑制への関与を示唆している。AMH投与はこの機序を解明していく契機となると考えている。 3. AMHは未成熟セルトリ細胞から分泌されることが確認されており、血中にも高濃度で存在しているため、精巣以外への作用も推測される。肝、腎、肺、心には発現していないことを確認している。性成熟との関連から、脳とくに視床下部、下垂体にAMHR2の発現している可能性があり、性腺刺激ホルモン分泌との関連を含めて検討して行く。セルトリ細胞の成熟はAMHを介して身体成熟と関連している可能性がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の用途は、実験に用いる消耗品(ラット合成抗ミュラー管ホルモン、実験消耗品、ラット等)と結果報告のための旅費(学会報告)、実験助手の謝礼である。備品は購入しない。 繰越金は消耗品が予定額より安く購入できたため生じた。
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