研究課題/領域番号 |
24591507
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
梅田 雄嗣 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80397538)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | iPS細胞 / 軟骨 / 先天異常 |
研究概要 |
ヒト多能性幹細胞(ES/iPS細胞)からの3系統の軟骨・骨分化誘導システムのうち、いまだ未完成である側板中胚葉由来の軟骨前駆細胞を誘導する3つのin vitro分化誘導システムを試みた。(1)ES/iPS細胞から胚様体を形成し、BMP存在化で6-8日間培養、(2) ES/iPS細胞とOP9ストローマ細胞と共培養し、6-8日間培養、(3)マトリゲルコートした培養ウェル上にES/iPS細胞を付着させ、無血清培養条件下でBMP4を添加して6-8日間培養した。出現した分化細胞をフローサイトメトリーで解析すると、PDGFRa、VEGFR2、CD34等を発現した細胞がいずれの培養条件でも1~10%出現し、側板中胚葉由来の前駆細胞が分化誘導されている事が確認された。 ES/iPS細胞をマトリゲルコートした培養ウェル上に付着させ、無血清培養条件下でTGF/Nodal/Activinに対する小分子インヒビターSB431542を添加して6日間培養すると、CD271+PDGFRa+CD73-神経堤細胞が出現した。続いてこの細胞をフィブロネクチンコートした培養ウェル上に付着させ、無血清培養条件下でbFGF+SB431542を添加すると、高い軟骨分化活性を有するCD271+PDGFR+ CD73+間葉系細胞が大量に増幅された。この軟骨前駆細胞を三次元培養に移して小軟骨片を作成し、免疫不全マウスNOD/SCID/gcnullマウスの皮下へ移植した。3ヶ月後に移植片を取り出すと、基質の増加による軟骨組織のサイズ増加を認めた。組織学的検討では、アルシャンブルー染色陽性軟骨組織とアリザリンレッド染色陽性骨組織が混在する像が認められ、軟骨から骨への最終分化に至る過程が再現出来ている事が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の第一目標はヒトES/iPS細胞から3系統すべての前駆細胞由来の軟骨分化誘導システムを完成させることである。現時点で沿軸中胚葉・神経堤細胞由来の軟骨前駆細胞の分化誘導システムが確立しているため、いまだ未完成の側板中胚葉由来の軟骨前駆細胞を経て成熟軟骨を形成する分化培養システムの開発が急務である。昨年度の検討では、様々な培養条件下においてPDGFRa、VEGFR2、CD34等を発現した側板中胚葉由来の前駆細胞が出現する事が明らかとなった。この結果は軟骨分化活性の高い側板中胚葉由来の軟骨前駆細胞の同定や至適培養システムの確立といった今後の研究に繋がる第一ステップとして大きな進展と考えられる。 また、本研究における最大の目標は患者iPS細胞を用いた先天性骨・関節疾患の病態および新規治療法を網羅的に解析する基盤技術の開発であり、in vivoにおける軟骨・骨形成過程を再現出来る動物モデルの確立が期待される。昨年度の検討では軟骨前駆細胞の三次元培養により得られた小軟骨片のNOD/SCID/gcnullマウスへの皮下移植により、軟骨から骨への最終分化に至る過程が観察され、内軟骨性骨化が再現出来ることが明らかとなった。この動物実験モデルを用いる事で様々な軟骨・骨の表現型評価法を開発することが可能となるため、患者iPS細胞を用いた先天性骨・関節疾患の病態解明や新規治療開発への応用に展開するための基盤研究を行う上で大きな進展と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の検討で明らかとなった結果を元に、今後は以下の研究を推進して行く予定である。 (1)側板中胚葉由来の軟骨前駆細胞を経て成熟軟骨を形成する分化培養システムの開発:側板中胚葉からの四肢形成に関連した転写因子のmRNA発現レベルや二次元培養法によるin vitroでの軟骨分化活性を指標にして側板中胚葉由来の軟骨前駆細胞に特異的な細胞表面抗原を同定する。さらに側板中胚葉由来軟骨前駆細胞の三次元培養により形成された小軟骨片のNOD/SCID/gcnullマウスへの皮下移植により、軟骨から骨への最終分化に至る過程が再現出来るかを検討する。 (2) 前駆細胞の発生から軟骨・骨の分化・成熟過程における表現型評価法の確立:(a)種々の細胞表面マーカーを用いたフローサイトメトリーによる軟骨前駆細胞の発生過程を詳細に検討する評価法、(b) ヒトES/iPS細胞由来の軟骨前駆細胞から分化成熟軟骨や骨への分化過程における生物学的特性、分化・増殖に関与する転写因子活性、シグナル伝達経路を検討する評価法の確立について、既にin vitro、in vivo軟骨・骨分化誘導システムが確立している沿軸中胚葉・神経堤細胞由来の軟骨前駆細胞を中心に進めて行く。 (3) 先天性骨・関節疾患iPS細胞の樹立、軟骨・骨への分化誘導とその表現型の評価:神経堤細胞(Treacher Collins症候群など)、沿軸中胚葉(軟骨無形成症など)、側板中胚葉(CINCA症候群など)由来の軟骨・骨形成障害に異常がある疾患のiPS細胞を樹立する。樹立されたiPS細胞は正常核型、未分化マーカー発現、in vitroまたはin vivoでの多分化能を確認する。続いて疾患iPS細胞を3系統の分化誘導システムを用いて分化させ、前駆細胞の発生過程をフローサイトメトリーで評価する。さらに成熟軟骨・骨の分化過程を(2)の評価法を用いて解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度の検討で明らかとなった結果を元に、今年度は以下の研究を推進して行く予定である。 (1)側板中胚葉由来の軟骨前駆細胞を経て成熟軟骨を形成する分化培養システムの開発:側板中胚葉からの四肢形成に関連した転写因子(PRRX1、FOXF1)の発現レベルやin vitroでの軟骨分化活性を指標にした側板中胚葉由来の軟骨前駆細胞の同定、ならびに得られた軟骨前駆細胞のin vivo軟骨・骨分化能の検討を行う。 (2) 前駆細胞の発生から軟骨・骨の分化・成熟過程における表現型評価法の確立:既にin vitro、in vivo軟骨・骨分化誘導システムが確立している沿軸中胚葉・神経堤細胞由来の軟骨前駆細胞を用い、 軟骨前駆細胞の発生過程を詳細に検討する評価法と分化成熟軟骨や骨への分化過程における生物学的特性、分化・増殖に関与する転写因子活性、シグナル伝達経路を検討する評価法を確立する。 (3) 先天性骨・関節疾患iPS細胞の樹立、軟骨・骨への分化誘導とその表現型の評価:まずは既に当機関で樹立されているCINCA症候群iPS細胞を用いた軟骨前駆細胞の分化誘導と成熟軟骨・骨の最終分化誘導を試み、(2)の評価法を用いて解析する。 そのため、経費の主要な用途は培地、抗生物質、ウシ血清、培養用フラスコ・ディッシュ・ピペット等のプラスチック器具、硝子器具、成長因子、抗体、PCRプローブ、免疫不全マウス、RNA抽出・リアルタイムPCR・免疫染色・ウェスタンブロットに関連した試薬の購入である。また情報交換や学会で研究成果を公表するために必要な出張経費も適宜必要となる。これらを本研究経費から支出する事は十分妥当と考えられる。
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