研究課題/領域番号 |
24591519
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
福光 秀文 岐阜薬科大学, 薬学部, 准教授 (00308280)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 大脳皮質 / 転写因子 / 高次脳機能 / BDNF / 自閉症スペクトラム障害 |
研究概要 |
本研究では 乳幼児期における選択的注意能の発達不全が自閉症スペクトラム障害の社会適応能の発育に及ぼす影響を明らかにするために、以下の研究を実施している。1. 選択的注意能の発達における脳由来神経栄養因子 (BDNF) の役割、2. 自閉症モデル動物で発見した転写因子 Cux1、Brn1の発現低下がBDNF シグナル伝達や機能、選択的注意能および社会適応能の発達に及ぼす影響、の解析である。 マウスの選択的注意能を行動により評価するため、金網の位置を手がかりに餌の位置を学習するタスクを考案した。以前の予備検討から、野生型マウスは2週間で、金網とエサの位置関係を記憶・学習し、学習成立時には選択注意および学習・記憶に関係する前頭葉、辺縁系、金網の認識にかかわる体性感覚野の pERK1/2 および c-Fos 陽性細胞の細胞数が増加することを明らかにしていた。一方、BDNF ヘテロ型遺伝子欠損 (BDNF+/-) マウスに同じタスクを課した場合、同期間試行しても学習できなかった。各脳領域のc-Fos発現を観察したところ、BDNF+/- マウスの体性感覚野では野生型に匹敵する陽性細胞数の増加が観察されたが、前頭葉、辺縁系では陽性細胞の増加が認められなかった。このことは、BDNF+/- マウスが記憶不全によって、金網と餌の関係を認識できず、金網の存在に注意を払っていなかった可能性を示唆している。 また、Cux1 および Brn1 の発現抑制レトロウイルスベクターを作成し、抗タイターのウイルス液を得た。さらに、Cux1、Brn1 の選択的注意、社会適応能における役割を明らかにするために大脳皮質特異的に Cux1、Brn1 を発現抑制するマウスを作製予定である。本年度は、大脳皮質特異的に Cre リコンビナーゼを発現するマウスから ES 細胞を樹立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金網の位置を手がかりに餌の位置を学習させる試験において。BDNF シグナルが物体認知(金網の存在の認識)ではなく、情報の関連づけ (金網と餌の位置情報の結びつけ) あるいはその記憶に重要な働きをしていることを明らかにした。選択的注意における BDNF シグナルの役割の一端を明らかにすることができた。以前の検討から、野生型マウスでは同領域において、ERK1/2のリン酸化を見出していることから、BDNF シグナルの増強剤と阻害剤を用いて、行動と ERK1/2 のリン酸化に及ぼす影響を明らかにし、メカニズムの詳細をさらに解析する予定である。 また、自閉症病態モデルで変化していた転写因子の BDNF シグナルへの関与の解析については、多くのツールづくりが昨年度で完了したため、本年度はこれを用いて解析を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
A. 1. 選択的注意に関する高次脳機能に BDNF シグナルが重要な役割を果たすこと、2. c-Fos や pERK1/2 の陽性細胞数の変化から、どの神経システムに失調が起こるかを推定できること、が示唆された。そこで、BDNF シグナルの増強剤や阻害剤を併用して、行動実験およびその時の遺伝子発現等を解析する予定である。 B. 当初、大脳皮質の局所に転写遺伝子の発現抑制ベクターを導入して、機能解析を行う予定であった。しかし、別個に進めていた共同研究により、極めて迅速に発現抑制マウスを作製できる環境が整えられたため、大脳皮質特異的遺伝子抑制マウスを用いて今後解析することを計画している。培養下の神経細胞の BDNF シグナル伝達に及ぼす転写因子の機能については予定通りに進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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