日本人男性・女性の二次性徴発来の平均年齢から3年以上早くあるいは遅く発来した51名の児に対し、二次性徴発来に関連する49遺伝子を網羅的に解析した。思春期早発症児10名では、検索した49遺伝子の中で異常をみつけることができなかった。思春期遅発症の41名の中では、臨床的に低ゴナドトロピン性性腺機能低下症と診断された児が22名で網羅的解析を行い、そのうち1/3程度でKAL1、FGFR1、CHD7、TACR3などの原因遺伝子を同定した。残りの2/3に関しては、既報の遺伝子に異常をみつけることはできなかった。 また、網羅的遺伝子解析を行った中でFGFR1遺伝子異常を同定したKallmann症候群17歳男性に対して、rhFSH75単位を単独で毎日2ヵ月間投与し、まず血中FSHを十分に上昇させた後、hCG1000単位+rhFSH75単位隔日投与を行った。精巣容積は徐々に増大し、血清テストステロン値は5.47 ng/mLへ上昇、精巣容積も10 mLに達した。従来汎用されている方法では精巣の発育さえも得られなかった症例でこのような結果であったことは臨床的に重要と考えている。 当初の目的であった低身長児の診療にこの遺伝子解析の結果を役立てるということに関しては、ごく軽い早発・遅発の患者からの同意がなかなか難しかったこと、実際、あきらかな病態が存在するであろう児においても既報の遺伝子の解析では、異常がみつからなかったこともあり、研究期間内に、遺伝子の解析結果で、病的とは言い難いいわゆる体質性低身長児の方針を決定するまでには至らなかった。ただし、網羅的遺伝子解析法は軌道に乗っており、研究期間は終了するものの、引き続き症例を蓄積して解析を続け、思春期発来のメカニズム解明に迫りたいと考えている。
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