研究課題/領域番号 |
24591525
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
土橋 一重 昭和大学, 医学部, 講師 (60260569)
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キーワード | 小児 / 栄養 / 脂肪 / 酸化ストレス / 肥満 / 生活習慣病 / 一酸化窒素 |
研究概要 |
本研究は、小児の栄養障害、栄養状態と脂肪組織の代謝変動に関する研究で、基礎的研究および臨床的研究の両方から検討している。研究計画にも示したように複数のプロジェクトを行い、積み重ねていっている。いくつかの研究は既にその成績を発表できた。 基礎研究として平成25年度は、前年度に引き続き、培養脂肪細胞を用いた研究を継続した。3T3-L1脂肪細胞の培養液に腫瘍壊死因子α(TNF-α)を添加すると酸化ストレスおよび一酸化窒素(NO)ストレスが高まり、単球走化因子1(MCP-1)の分泌が亢進し、アディポネクチン分泌は低下する。これは、肥満時にみられる脂肪組織のいわゆる「炎症」であり、近年非常に重要視されている。MCP-1やアディポネクチン産生を正常化するためにAMPキナーゼ(AMPK)系の関与について検討している。AMPK活性化剤であるAICARは、他のAMPK活性化剤であるメトフォルミンにはない、抗炎症作用があることが判明し、アディポサイトカイン分泌を正常化した。これは重要な新知見として学会発表を行い、現在、論文投稿の段階にある。 臨床研究としては、新しい非侵襲的な内臓脂肪測定装置について、小児で有用か否かの検討をした。新しい機器であり、我が国小児ではこの様な研究はなく、その有用性を学会で報告した。また、早産児や低出生体重児において、種々の要因と血清アディポネクチンレベル(その分画)について継続して検討しており、DOHaD仮説との関連で学会発表や論文発表を行った。また、昨年行った肥満小児における、マクロファージから分泌されるアポトーシスインヒビター(AIM)レベルと合併症との関連性について論文発表の準備をしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肥満時、脂肪細胞はMCP-1を過剰に分泌し、マクロファージを脂肪組織内に浸潤させる。浸潤したマクロファージと脂肪細胞はTNFαなどのサイトカインを産生する。肥満では、これらによる局所での高サイトカイン血症、すなわち「炎症」により脂肪組織代謝が障害され、アディポサイトカイン分泌変動などを介して、糖尿病などの合併症発症・進展に関与する。 研究代表者の以前の研究で、脂肪細胞ではサイトカインなどの刺激によりNO合成酵素が誘導され、多量のNOが産生され、また、抗酸化酵素レベルが低下し酸化ストレスが惹起されることが判っている。アディポサイトカイン分泌にも関係する脂肪細胞代謝変動について、25年度はAMPK活性化剤の効果についてまとめることができ、これは非常に有意義な研究成果と捉えている。 また、生後の栄養に関して、授乳の種類により、乳児期の体格に差が生じることを明らかにし、論文発表した。さらに、新生児での検討で、善玉であるアディポネクチンを分子量別に検討し、論文にできた。また、肥満小児でのAIMレベルについてデータをまとめている。また、関連して小児の健診でのLDL/HDLコレステロールなどについても検討し、小児生活習慣病対策全般に取り組んでいる。 おおむね計画は順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前述のように本研究では、基礎と臨床の両面からアプローチしている。臨床小児科医であるのでそれが可能となっている。まずは、現在進行中のプロジェクトを継続し、完成させていくことが重要であり、さらにそれらを発展させていく予定である。また、昨年度の成果を論文として発信するようまとめる作業もある。 新年度の具体的な計画としては当初の計画にも示した動物モデルを用いた研究を推進していく。培養脂肪細胞の研究では、さらに種々のシグナル経路制御薬などを用いて、酸化ストレス、NOストレス、アディポサイトカインなどの変動との関連性を研究していく。 新生児期から学童期までの、小児の栄養法、栄養状態、発育発達、体格変化、生活習慣病など脂肪組織を中心とした代謝変動と酸化/NOストレス、またその制御に関して、一層の努力をする。環境整備なども行ったので、更に研究が推進されるものと思う。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度から、既存の測定機器を駆使して、また、試薬やキット等を節約して使用した経緯がある。しかし、整備が必要なものも多く、また、26年度は、細胞や動物実験をより多く行う予定があり、消耗品費や機器費は増す可能性が高いと考えている。 上述のように細胞や動物を用いた実験を、前半に何度も行うことを計画している。それにともない、測定キットや試薬を前年度以上に購入する予定としている。また、脂肪細胞培養システムの一部に故障が見つかり、そのための費用も必要となっている。これらも研究費を大切に使ってきたので可能と考えている。
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