リソゾーム酵素欠損症では、一般的に酵素補充療法の有効性が期待できるが神経変性を伴う疾患に対しては血液脳関門(BBB)の存在が大きな障害となり、有効な治療戦略が立てられていない。本研究では脳全体の広範な神経変性を伴う、異染性白質ジストロフィーをモデルとして、臨床応用を目的とした、非侵襲的かつ安全な、治療法の開発を目的とする。具体的には我々のこれまでの研究成果を踏まえ、①新生児期の治療法の確立、及びBBBを効率よく通過するための画期的な方法による②成体の神経症状の新規治療法の確立を行っていくとともに、臨床応用を念頭に安全性の検討も行い、臨床プロトコールの作製を行う。 前年度までに、新規治療用ベクターを用いることにより、行動実験による治療効果の判定を行った結果、従来使用していた治療用ベクターより少ない量で優位に改善を認めていたが、本年度マウスをsacrificeし解析したところ、特に目的臓器(神経細胞)に長期(18ヶ月)遺伝子導入がされていることを確認した。また神経変性の原因でもある脳内のスルファチド蓄積の減少も優位に認められた。以上のことより、当初の目的である治療用蛋白がBBBを超え、広範囲の神経細胞に遺伝子導入することが可能になりまた実際に治療することにも成功した。
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