研究課題/領域番号 |
24591533
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
岩田 幸子 久留米大学, 医学部, 助教 (40465711)
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研究分担者 |
岩田 欧介 久留米大学, 医学部, 准教授 (30465710)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 新生児 / 睡眠 / Actigraphy / 認知障害 / 睡眠障害 |
研究実績の概要 |
本研究は,誕生からサーカディアンリズムを獲得するまでの過程を多面的に明らかにすることを最大の目的としている. 新生児および乳児期早期における簡易睡眠定量機器Actigraphyの定点連続記録の解析では,活動絶対量の日齢変化(増幅と群集化)を評価すると同時に,胎内リズムの継承と減衰および数時間毎のウルトラディアンリズムを評価し得た.生後リズム形成の多角的評価としてActigraphyと同時期に施行した内分泌的検討(唾液中コルチゾール測定)では,出生時の影響(出生時刻)は生後数日間と限定的であったのに反し,胎内で培われたリズム(ピークは正午から夕方)は,少なくとも生後2か月間持続することが明らかとなった.また,授乳によりコルチゾール値は上昇し,中でも,哺乳行為がリズム形成に一役買っていると推測されたが,同期間内における日齢とコルチゾール値の関係は負相関にあり,乳児期早期は,児由来のリズム獲得過程における準備段階と考えられた. 一方,睡眠・覚醒リズム獲得の影響因子の探索のため,生後1か月の健常児とその母親を対象に通年性に行った質問紙調査は,最終的に1000例を超える大規模研究となり収集期間を終えた.現段階における予備的解析では,睡眠リズムにおける強固な母児間関係や日中の明かり刺激といった先行研究と同様の結果とともに,経産婦(きょうだい児あり)や母乳育児の早期確立が児の長い夜間睡眠時間に関与すること,さらに,児の睡眠状況が母親の心理面に多大な影響を及ぼすことが見出されている. 現在,新生児期以降幼児期に至るまで,定点でActigraphy・睡眠日誌・質問紙の調査を行う縦断的調査を施行中であり,最終的には認知機能発達評価まで完遂することで,睡眠・覚醒リズム獲得過程の解明のみならず,先天的・後天的影響因子解析,さらには睡眠リズムが発達に及ぼす影響について詳細検討する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Actigraphyで得られたデータ(活動量)の解析において,当初,妥当性・信頼性評価のため施行した睡眠ポリソノグラム(PSG)との同時検査で採用した,活動量を睡眠判定に転換する従来方式に,今回,周波数解析を加えることで,リズム評価を行うことが可能となった.乳幼児には困難と考えられているActigraphyの簡易睡眠判定機器としての使用を,用途を拡大することで,有意義な検査法と位置付けられると考える. また,本研究のphase1である新生児期コルチゾール値測定における詳細な検討の結果は前述の通りであるが,影響因子として,胎内ストレスの存在が大きいと推測されている.このため,縦断的睡眠調査を行うphase2における症例選択を見直す必要が生じたが,「慢性的胎内ストレス下での出生児は神経学的異常をきたしやすい」とされる先行研究結果に対し,睡眠解析の面から新たな知見を得ることが期待される. 一方,昨年度に追加開始した,生後1ヶ月の正常新生児を対象に,本研究で用いている質問紙調査は,予定通りの症例数で完遂した.予備的解析から有用な結果を見出せており(前述),最終的な解析結果は,スタディーパワーを考慮すると,大変重要なものとなる. 成果報告に関しては,昨年度の尿・唾液サンプルによるコルチゾール値のreliabilityに関する論文は,国際学会誌にアクセプトされた.現在,新生児期から乳児期早期におけるコルチゾール値測定における詳細な検討の結果について,数本に分け,論文執筆中である.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,phase2にエントリーする症例(定点でのActigraphy・睡眠日誌・質問紙の調査)を収集する.この際,対象者を,早産児・胎児発育不全児(胎内ストレス)・成熟児で均等分布する様,考慮する.また,ドロップアウトする症例に苦慮したことから,対象者の負担軽減として,1回の調査期間短縮,日誌の簡略化を図る. 最終的な幼児期対面式発達評価に関しては,すでに,外来での実施実績があるので,施行自体に問題はないが,対象人数の拡大を受け,実施日の増大の必要がある. また,phase1において,採取保存されている唾液サンプルでメラトニン測定の追加を予定している.多因子の影響を受けやすいコルチゾール値に対し,睡眠ホルモンであるメラトニン値を追加検討することで,日内リズム解析に重点をおいた結果になると考えられる.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究のphase1である新生児期コルチゾール値測定における詳細な検討の結果,子宮内胎児発育不全(IUGR)に関係した特異的な生後変化が認められた.IUGRは,先行研究において,将来的な内分泌異常や神経学的異常との関係が示唆されており,間接的に睡眠に与える影響も考慮する必要がある.このため,縦断的睡眠調査を行うphase2における症例選択を見直すため,一旦,新たなphase2以降を中断した.また,phase3で必要となる専門心理士の追加雇用が見送られた.
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次年度使用額の使用計画 |
出生時の内分泌的異常がもたらす睡眠への影響についても二次的に調査できる様,IUGR児の症例を集め,またphase2時にホルモン検査を追加する.このため,ホルモン検査の解析,さらに,外来で行う対面式発達検査を行う専門心理士や,収集データの入力などの研究補助員の経費が必要である.さらに,新たに判明した新生児期コルチゾール値の胎内影響因子をはじめ,順次解析結果を学会発表する予定である.
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