研究課題
誕生からサーカディアンリズムを獲得するまでの過程を多面的に明らかにすることを最大の目的とした本研究は,新生児から乳児期早期の活動量定量,唾液中コルチゾールによる内分泌的検討,生後1か月の健常母子を対象に通年で行った質問紙調査からなる.唾液中コルチゾールによる検討では,胎児期由来と推測される微弱な唾液コルチゾールリズムの残存と,その消退過程を明らかにし,報告した.また,症例数を増やした検討では,胎内ストレス環境に晒された子宮内発育遅延児(IUGR)において,生後早期のコルチゾールがpeerと比べて高く,生後2週間以降は逆に低いことがわかった.胎児プログラミングによる成人病の発症については盛んに研究されているが,新生児期の内分泌調節への影響は不明な点が多く,今後の成果が期待される.大規模質問紙調査の解析においても,胎内での影響を示唆する所見を認めた.日照時間の短い冬の方が,睡眠ホルモンであるメラトニン分泌が高く,睡眠時間も長いことが予想されたが,春生まれの新生児は,秋生まれに対し,有意に夜間睡眠時間が長いことが判明した.生後早期は春生まれの児のメラトニン分泌量が多いとする先行研究があり,胎盤移行した母体由来のメラトニンレベルとの関連が推察される.睡眠における母児関係は強固なものであるにも関わらず,母親の睡眠に季節的関与を認めなかったことも興味深い.胎児リズムを一旦脱却し,自らサーカディアンリズムを確立するにあたって,光刺激が担う重要な働きを再認識する結果である.以上,本研究において,サーカディアンリズム確立に向け,胎内から継続する内的因子に生後の環境因子が複雑に絡み合い,乳児期早期の睡眠は形成されていることを明らかにすることができた.これまで収集した3歳までのフォローアップ調査を基に,さらに,睡眠および発達に対する胎児・新生児プログラミングの影響を明らかにしたい.
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Brain Dev.
巻: 38(4) ページ: 377-385
10.1016/j.braindev.2015.10.010.