研究課題/領域番号 |
24591538
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構大阪医療センター(臨床研究センター) |
研究代表者 |
正札 智子 独立行政法人国立病院機構大阪医療センター(臨床研究センター), 先進医療研究開発部 幹細胞医療研究室, 室長 (40450895)
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研究分担者 |
金村 米博 独立行政法人国立病院機構大阪医療センター(臨床研究センター), 先進医療研究開発部 再生医療研究室, 室長 (80344175)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 細胞・組織 / 神経科学 / 脳神経疾患 / 発生・分化 |
研究概要 |
1) L1CAM異常を有する疾患ヒトiPS細胞の作成 神経接着因子L1CAMの遺伝子異常が同定され、初代培養線維芽細胞が樹立されている3症例のXLH患者より、疾患ヒトiPS細胞を作成した。3症例の内訳は、2例が重症型のL1症候群の表現型となる膜貫通ドメイン以下が欠損するClass III変異(細胞外ドメインのナンセンス変異1例: c.2250C>A, p.750Tyr>Stop、スプライシング異常によるフレームシフト変異1例: c.400+5G>A)、1例が細胞外ドメインのミスセンスによるClass II変異(c.2135C>T, p.712Arg>Val)である。iPS細胞の作成は、プラスミドベクターの遺伝子導入によるインテグレーションフリー(Okita et al, Nat Methods 2011)のシステムを用い、シークエンス解析による遺伝子異常保持の確認と、一般的な多能性幹細胞の細胞特性解析を行った。3症例のL1CAM遺伝子変異を持つ患者線維芽細胞より、疾患iPS細胞を樹立した。 2) iPS細胞の神経系細胞への誘導法の検討 細胞特性解析を終えたClass III L1CAM変異を持つ2例のiPS細胞から、神経系細胞への誘導を行った。セミコンフルエントのiPS細胞を回収し、BMPシグナル阻害剤(Dorsomorphin)とTGF-β I型受容体の拮抗剤(SB431542)という2種類の低分子化合物を用い、神経外胚葉性の細胞を誘導した。また健常人iPS細胞からも同様の方法で誘導を行い、正常コントロールとした。分化誘導の成否は、qRT-PCR法や免疫細胞染色法により神経系細胞マーカーの発現比較で確認を行った。予備的な実験ではあるが、2症例のClass III L1CAM遺伝子変異を持つ疾患iPS細胞から、神経系細胞を誘導することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度計画 (1) L1CAM異常を有する疾患ヒトiPS細胞の作成について、Class III変異を持つ重傷型L1症候群患者2例及び、Class II変異を持つ患者1例の線維芽細胞より、疾患iPS細胞の作成に成功した。遺伝子異常が保持されている事を確認し、各種多能性幹細胞特性も概ね確認作業を終了した。 計画 (2) iPS細胞の神経系細胞への誘導法の検討について、2種類の低分子化合物を用いた分化誘導法により、神経系細胞への誘導に成功した。遺伝子発現解析により、神経系細胞マーカーが十分発現している事が確認された。 以上より、初年度内にL1症候群発症の分子メカニズムの解明に必要となる細胞材料を用意する事ができたことから、本研究は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
作成したL1CAM遺伝子変異を持つ疾患iPS細胞と、それから誘導した神経系細胞における遺伝子発現と分化能について、正常コントロールとの比較を行った。qRT-PCR法と免疫細胞染色法を用い、iPS細胞と神経系譜細胞に特徴的な遺伝子発現を検証したが、遺伝子異常に起因すると思われる形質は、今のところ観察されていない。今後は下記2点の観点から詳細な解析を進める。 1) マイクロアレイシステムを用いた遺伝子発現プロファイルの取得。 2) 遺伝子異常に起因すると思われる形質が表れる適切な段階まで、神経分化を進める。 L1CAMには、short hairpin-RNAを用いた遺伝子サイレンシング解析により、ヒトES細胞での自己複製能と多分化能への関与が報告されている(Son et al, Stem Cells 2011)。今までのところ、作成したL1CAM遺伝子異常を持つiPS細胞の自己複製能や多分化能に特に異常は見られないが、報告を検討しマイクロアレイ解析などを用いた詳細な解析が必要であると思われる。またiPS細胞より誘導した神経系細胞について詳細な解析は終えていないが、Nestinやbeta-III tubulin陽性細胞など神経系細胞が誘導されることは確認されたが、遺伝子異常に起因すると思われる形質は観察されていない。原因として、試みた予備的な実験で誘導される神経細胞は、生体で形質が現れる発生段階と比べ、幼弱である可能性が高いと考えている。今後は更に試行を重ね、適切な誘導法と解析法の探求を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度経費の中で504,829円の未使用分があり、これを次年度に繰り越し、平成25年度は合せて2,104,829円を物品費および国内外における最新の情報収集や成果発表のための旅費等に主に使用し、研究を実施する予定である。
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