研究課題/領域番号 |
24591541
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
長澤 正之 東京医科歯科大学, 医学部, 非常勤講師 (90262196)
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キーワード | 造血幹細胞移植 / 酸化ストレス / 血栓凝固 / 慢性炎症 / GVHD / 細胞誘電特性 |
研究概要 |
前年度は慢性GVHDマウスモデルを用いてヒトリコンビナント・トロンボモジュリン(TM)のGVHDに対する影響の検討を行い、TM投与群で軽度の生存率の改善と皮膚GVHDの改善が確認された。今年度は脾細胞の投与量をあげ(5×10^6個→20×10^6個)より強い慢性GVHDを誘導して検討を行ったが、生存率の改善は認めなかった。 一方、TMのもつ抗凝固作用と抗炎症作用のGVHDへの影響を判別する目的で、TMの抗凝固作用の主体である活性化プロテインC(APC)投与の影響を検討した。APC投与群、非投与群間での生存率で有意差は認めなかった。実験回数が少なく何ら結論を述べることができないが、皮膚GVHDに限れば明らかにAPC投与群が優れていた。予期せぬ腸管GVHDがAPC投与群、非投与群ともに出現しており若干の実験系の再検討が必要であると考えられた。 以上より現在までのデータからは、TMはGVHDによる急性の生存率の改善効果認められないものの、慢性GVHDの主たる標的臓器である皮膚には効果を認めると考えられた。またその作用はAPCでも確認された。今後は、今後は脾細胞投与量を逆に少なくし、急性の生存率の検討を避け、再現性の確認に加え臓器別の慢性GVHDの解析を中心に検討する。 トロンボモジュリンの細胞への影響を検討するため、ヒト赤血球をトロンボモジュリン(0.1μg/mL, 1.0μg/mL)存在下で形態、および誘電特性から検出される大きさ、および膜キャパシタンス、細胞質電気伝導度の推移を63日間、経時的に検討した。コントロールと比べ全ての項目において有意差は見られなかった。今後は酸化ストレスを急性に加えた状態で影響がないかを細胞誘電特性の変化で検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床医療において、造血幹細胞移植早期の凝固異常に対してヒトリコンビナント・トロンボモジュリンが移植合併症の軽減と生存率の改善に寄与することを報告した(Nagasawa et al. Int.J.Hematol. 2013) が、マウスモデルでは再現ができなかった。しかし、慢性皮膚GVHDに対しては明らかな効果があり、その病態を解析することは急性の炎症反応ではなく、生活習慣病などの慢性炎症に起因する病態のモデルや解析にわれわれの系が有意義な可能性があると考えられた。また、細胞および細胞膜の変性を細胞誘電特性で解析可能となる基礎的データが蓄積しつつあり、新しい解析方法として期待できる可能性がある。今後は生存率ではなく、生活習慣病を念頭に置いた、個別の臓器に対する影響などの解析をすることで凝固異常と慢性炎症・酸化ストレスの関係を明らかにできると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今までの検討より、トロンボモジュリンが急性GVHDを抑え生存率を改善することはできないと考えられた。しかし、慢性皮膚GVHDはあきらかに改善しており、血管炎などの慢性炎症を有意に制御することが考えられた。臓器別の慢性GVHDに対する病態を解析することで、移植医療だけではなく生活習慣病を中心とした慢性炎症の病態解析に今後有意義である可能性が考えら、これは新規の知見である。今後はGVHD誘導のための脾細胞投与量を少なくして、生存率ではなく、臓器別慢性GVHDへの影響を中心に解析する実験系を組み立て、病理組織学的解析のみならず、酸化ストレスマーカーも併行して解析する予定である。 また細胞誘電特性による細胞変化の検討については、酸化ストレス・アポトーシスストレスでどのような変化が見られるかを検討する。細胞誘電特性の変化の検討は共同研究による機器の進歩でようやくできるようになったところであり、新しい知見が期待できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
慢性GVHDと酸化ストレスによる慢性炎症を検討するマウスモデル系の樹立が当初より時間がかかったが、ようやく方向性が固まってきた。当初は急性GVHDおよびその生存率改善を指標に検討を進めてきたが、急性死亡率が高く、慢性炎症・酸化ストレスを解析するに十分なモデル系とならなかった。今年度は弱い慢性GVHDの誘導系で検討することで実験計画に従い有意義なデータが出ることが期待される。またアッセイ系では細胞誘電特性の解析感度は十分進歩し、新たな知見が得られることが期待される。以上より研究計画の継続を必要とする。 平成26年度は今までに行っていた慢性GVHDマウスモデルを弱い慢性GVHD誘導系に移行して、トロンボモジュリンおよび活性化プロテインCの影響を検討する。また、酸化ストレスマーカーを血液・尿および組織で解析する。そのために研究試薬など消耗品として85万、学会研究会参加諸経費として20万、また通信諸経費および最終年度であるため研究成果をまとめるための経費として15万円を計上する。
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