研究課題
我々はこれまでに、EBV関連血球貪食性リンパ組織球症(EBV-HLH)では、EBVがCD8+ T細胞に選択的に感染し、クローン性に増殖すること、さらに感染細胞がCD5発現の低下した異常活性化CD8+ T細胞として同定可能で、診断や治療に有用であることを報告してきた。このような表面マーカーの特徴を示すCD8+ T細胞の出現が、EBV-HLHに特異的か否かを明らかにするために、本年度は、家族性HLH(FHL)の解析を行った。FHLは、細胞傷害性顆粒やその放出に関連した異常によって引き起こされる遺伝性HLHである。細胞傷害活性の低下によりウイルス感染細胞等の除去が制限され、リンパ球やマクロファージの異常活性化と高サイトカインが生じる結果、HLHが引き起こされる。対象は、FHL2型(パーフォリン欠損)5例とFHL3型(Munc13-4欠損)1例である。解析した全例において、高サイトカイン血症が存在する急性期に、CD5発現が低下した異常な活性化CD8+ T 細胞が共通して存在することが明らかになった。同細胞の比率は、ネオプテリンやIFN-γなどのサイトカインに反映される炎症の程度と相関し、生存例では治療とともに減少した。T細胞レセプターレパトア解析を行ったところ、FHLで認められるCD5発現の低下した活性化CD8+ T 細胞は、オリゴクローン性に反応性に増殖していることが示唆された。EBV-HLHでは、感染細胞のクローン性増殖を反映して、特定のT細胞レセプターレパトアを有することが多い点と異なっていた。以上より、活性化CD8+ T細胞におけるCD5発現低下は、EBV-HLHのみならずFHLでも認められ、EBV-HLHに特異的な所見ではないものの、レパトア解析を併用することで、EBV-HLHの診断に極めて有用であることがあらためて示された。(Hum Immunol 2013)。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、EBV-HLHの臨床に役立てるために、症例の検討、患児由来の細胞や血清を用いた細胞分子生物学的解析から、EBV-HLHの病態を解明することを目的としている。これまでに、CD5発現やT細胞レセプターレパトア解析等を組み合わせた細胞解析とサイトカインプロファイル解析を駆使することで、EBV-HLHの免疫学的な特徴を明らかにしてきた。また本研究は、実際の診療にも役立っている。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
今後もEBV-HLH症例のみならず、多様なHLHを解析することによりEBV-HLHの病態を解明していく。特にEBV-HLHのEBV感染CD8+ T細胞やFHLの活性化CD8+ T細胞で認められるCD5発現低下の機序を解明したいと考えている。FHLでは、治療により全身炎症が落ち着くと、CD5発現の低下した異常活性化CD8+ T細胞は消失し、通常のphenotypeであるCD5を発現するCD8+ T細胞のみとなる。これらのCD8+ T細胞は、遺伝子異常を有しているにもかからず、in vitroで刺激してもCD5の発現は低下しない(Wada T, et al. Hum Immunol 2013)。EBV-HLHのEBV感染CD8+ T細胞で認められるCD5発現低下も、治療後に急速に改善し、EBV感染細胞比率と乖離する傾向のあることから、EBVの感染のみで引き起こされるのではなく、EBV感染の上に、強い炎症状態が併存して初めて現れる現象の可能性がある。このようなCD5発現を低下させる因子を検討することにより、HLHのCD8+ T細胞で認められる制御不能な異常活性化の病態を明らかにできるものと考えられる。またEBV-HLHに特有な、さらなる細胞マーカーや血清マーカーを見出すべく、実際の臨床の材料を用いて検討する予定である。
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