研究課題/領域番号 |
24591556
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
上地 珠代 宮崎大学, フロンティア科学実験総合センター, 研究員 (10381104)
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キーワード | リボソームタンパク質 / 翻訳異常 / ゼブラフィッシュ / ダイアモンド・ブラックファン貧血 / 骨髄不全 / リボソーム病 |
研究概要 |
リボソームの生合成に関わる因子の異常が、骨髄機能不全をはじめ様々な疾患の発症に関与することが示唆されている。最近ではこれらを「リボソーム病」と呼び、翻訳調節の異常が疾患を引き起こすメカニズムの解明に注目が集まっている。本研究では、赤芽球形成不全を示すダイアモンド・ブラックファン貧血(DBA)のゼブラフィッシュモデル(リボソームタンパク質S19遺伝子の発現を抑制した胚)を用いて、赤血球分化に特異的に影響を及ぼす翻訳調節異常を明らかにすることを目的とする。 1. DBAモデルにおける翻訳効率変動の解析 前年度に行ったポリソームを形成するmRNAの頻度解析(次世代シーケンサーによるRNA-seq解析)から、翻訳量が変動する遺伝子を絞り込んだ。これらの遺伝子の翻訳効率が、転写レベルでの変動の影響をどれくらい受けているのかを明らかにするために、トランスクリプトーム(全mRNA)との比較解析を行った。ポリソーム画分からのmRNAと全mRNAの解析結果から、共通して有効データを取ることのできる遺伝子は約5,500個あった。その内、約2,500個はDBAモデルにおいて転写レベルではあまり変動せず、リボソームによる翻訳調節を受けている可能性が高いことが示唆された。 2. DBAの新規候補遺伝子の同定 RNA-seq解析から、造血に関与する可能性が高い遺伝子を2つ同定した。ひとつは、翻訳レベルの低下が、もう一方は増加が見られた遺伝子である。これらの遺伝子に対してモルフォリノアンチセンスオリゴ(MO)を設計し、ゼブラフィッシュの受精卵に微量注入した。DBAモデルで翻訳低下が示された遺伝子をMOを用いて抑制すると、形態形成にはほとんど影響が現れず、赤血球のみが減少した。翻訳増加を示した遺伝子をて抑制しても、赤血球数への影響は観察されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RNA-seq解析は予定通り終了し、次のステップである新たなDBA候補遺伝子の解析を始めることができた。本年度は、当初、翻訳効率変動の原因となるモチーフ探索のためにリボソームフットプリント法を行う予定であった。しかし、真の翻訳効率を明らかにすることが新規の翻訳調節機構を解明するために必須であると考え、本年度は、まず、ポリソーム画分からのmRNAと全mRNAとの比較解析を行った(概要の1)。その結果、今後のモチーフ検索のための重要な基盤情報を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、蛍光プローブ(zFucci)を発現するゼブラフィッシュを用いたDBAモデルの作製し、蛍光顕微鏡による解析を行ったが、明らかな細胞周期の変化を捉えることができなかった。そこで、より高感度な共焦点レーザー顕微鏡を用いた解析に解析に移行する準備を進めている。 現在、新規のDBA候補遺伝子として2つを解析中であるが、解析対象とする遺伝子を増やすことで効率よくDBA発症機序を解明できると考えた。そこで、RNA-seqデータを複数の切り口で解析していくつかの遺伝子リストを作製した。それを基に、疾患と関連する可能性の高い遺伝子を新たに抽出し、それらの発現抑制または過剰発現モデルを作製して解析を進めていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
人件費は一人×8ヶ月分を計上していたが、その期間に満たなかったために予定を下回った。また、次世代シーケンサーによる委託解析費用を計上していたが、本年度も東京大学の鈴木穣博士らとの共同研究として行うことができたため予定額を下回った。 新たなDBA候補遺伝子として解析する対象を増やすため、アンチセンスオリゴ(MO)などにかかる費用が必要となる。また、今後、zFucciを発現するゼブラフィッシュの飼育規模を拡大する予定であり、それに伴う飼育係、実験補助の増員のための費用として使用する。
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