研究課題
リボソームの生合成に関わる因子の異常が、骨髄機能不全をはじめ様々な疾患の発症に関与することが示唆されている。最近ではこれらを「リボソーム病」と呼び、翻訳調節の異常が疾患を引き起こす可能性が示唆されている。本研究では、赤芽球形成不全を示すダイアモンド・ブラックファン貧血(DBA)のゼブラフィッシュモデル(リボソームタンパク質(RP)S19遺伝子の発現を抑制した胚)を用いて、赤血球分化に特異的に影響を及ぼす翻訳調節異常を明らかにすることを目的とする。前年度、リボソームを形成するmRNAの頻度解析(RNA-seq解析)とトランスクリプトーム解析の結果を比較し、翻訳効率が変動する遺伝子リストを作成した。本年度は、このリストから造血に関与することが知られている遺伝子を抽出し、ゼブラフィッシュを用いて解析を行った。最も翻訳効率が低下したのはGATA1遺伝子であった。この遺伝子は、DBA患者において変異が確認されており、RP遺伝子群以外のDBA遺伝子候補として注目されている。この点から、私たちが作成した遺伝子リストは発症機序を解明する重要な手がかりになると期待した。翻訳効率が最も低下する50個の遺伝子のうち、GATA1, RPS19を含めて8個が造血に関与することが知られている遺伝子であった。GATA1を除く上位3つの遺伝子に対してモルフォリノアンチセンスオリゴ(MO)を設計し、ゼブラフィッシュにおいて発現抑制実験を行った。いずれの場合もMOの濃度に依存して形態形成、造血ともに異常が現れた。また、このうち1つの遺伝子は、国内の2人のDBA患者で変異があることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
蛍光プローブ(zFucci)を発現するゼブラフィッシュにおいて、DBA発症機序の解明につながる細胞周期の異常を捉えることはできなかった。しかし、ポリソームを形成するmRNAの解析(RNA-seq)で得られたデータから、RPS19の下流で翻訳効率が変動する造血に関与する遺伝子を抽出することができた。さらに、ゼブラフィッシュを用いて発現抑制実験も行い、初期造血との関連性を解析することもできた。
本年度は、RPS19の発現抑制により翻訳効率が低下し、かつ造血に関与することが知られている遺伝子に絞り込んで解析を進めた。しかし、有力な発症機序の同定にはまだ至っていない。そこで、既知の機能が造血に関与しない遺伝子も解析対象とすることで研究が進展すると期待している。そのために、弘前大学の伊藤博士らが行ったエキソーム解析の成果を活用し、RPS19遺伝子の下流で翻訳効率が低下する可能性の高い遺伝子を抽出し、ゼブラフィッシュを用いてそれら遺伝子の発現抑制または過剰発現モデルを作製し、造血との関連を網羅的に解析していく予定である。
ポリソームを形成するmRNAを用いた次世代シーケンス解析(RNA-seq)で得られた結果から新規のDBA原因遺伝子を抽出する予定あったが、本邦のDBA患者100人のエキソーム解析の結果が利用可能となったため、計画を変更しRNA-seqとエキソームの両データを比較解析することとなり、未使用額が生じた。
この比較解析から、複数個の造血に関与する機能が既知の遺伝子、および機能未知の遺伝子を有力な新規DBA遺伝子候補として見いだしたので、未使用額はこれら遺伝子の機能解析を行う経費に充てる。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (4件)
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