リボソームの生合成に関わる因子の異常が、骨髄機能不全をはじめ様々な疾患の発症に関与することが示唆されている。最近ではこれらを「リボソーム病」呼び、翻訳調節の異常が疾患を引き起こすという新たな概念にもとで研究が進められている。本研究では、赤芽球形成不全を示すダイアモンド・ブラックファン貧血(DBA)のゼブラフィッシュモデル(リボソームタンパク質S19遺伝子の発現を抑制した胚)を用いて、赤血球分化に特異的に影響を及ぼす翻訳調節異常を明らかにすることを目的とする。 前年度は、ポリソームを形成するmRNA(翻訳されるmRNA)の解析とトランスクリプトーム解析とを比較し、翻訳効率を算出した。翻訳効率が低下する遺伝子リストの上位75個の遺伝子について、患者及びその家族のエキソーム解析の結果を用いて変異の探索を行った。しかし、新たなDBA遺伝子の有力な候補となる遺伝子の同定には至らなかった。 一方で、翻訳効率が50%以下に低下する遺伝子75個の中には、糖鎖修飾に関与する遺伝子が6個含まれることを見いだした。その内のひとつは、gata1に次いで2番目にもっとも翻訳効率が低下する遺伝子であった。そこで、この遺伝子のmRNAをin vitro合成し、リボソームタンパク質遺伝子S19に対するアンチセンスとともに受精卵に注入した。その結果、DBAモデルにおいて赤血球が増加することを確認した。この遺伝子は、ゼブラフィッシュの初期胚において、造血組織で強く発現することが確認されている。この遺伝子の翻訳効率が低下することで、赤血球の分化に影響が及ぼされる可能性があると考えた。
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