これまでの検討から、CD34陽性細胞のIkaros/CEBPa比は加齢とともに低下していた。これが前年齢を通しての造血幹細胞の加齢評価に使えるかどうかの検討を継続した。しかし、現実的に必要な50歳以上のドナーから得た検体では、若年者のような年齢とともに低下する変化を示さなかった。Ikaros単独、IkarosとCEBPaとの比、さらに対照遺伝子GAPDHの変更等を試みたが、幼少期から高齢者までの加齢変化を一元的に示す指標にはなりえなかった。最終年度は加齢の別指標としてWnt5aを加え、加齢ともに増加すると言われている同遺伝子との関係を観察して検討した。同時に、CD34陽性細胞分画にこだわらず、末梢血単核球全体で指標を見いだせないかどうかを検討した。 0歳~59歳から得たCD34陽性細胞および末梢血単核球で、Ikaros、CEBPa、Ikaros/CEBPa比、およびWnt5aの発現量を解析した。その結果、CD 34陽性細胞では従来の検討結果の通りIkaros/CEBPa比は年齢とともに低下傾向にあったが、Wnt5aの発現量は30歳台の検体で高く、若年者と高齢者で低下していた。末梢血単核球での発現量ではIkaros/CEBPa比が一定の傾向を示さず、分化したリンパ球・単球での評価に耐えなかった。同時に、実際の移植患者の移植前自己細胞と、移植後3か月時の骨髄細胞での変化を検討したが、有意な違いを示すことはできなかった。 ある程度の自己再性能がある造血幹細胞が移植によって変化するとしたら、同種免疫反応にさらされる移植後早期と、新しい環境の中で育ってきた細胞ではストレス度合いが異なることが推測される。したがって、移植そのものの影響を知るには移植後早期の測定、総合的な加齢現象を知るには移植後長期の観察が必要で、遺伝子の変化でその状態を見るには、マウスに比較してヒトの細胞寿命が長過ぎることが実験の限界を規定していると考えられた。
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