血液凝固第VIII因子(FVIII)は、欠乏では重篤出血(血友病A)を、増加では易血栓を惹起する。ゆえに、FVIIIを中心とする凝固血栓形成や抑制機序の解明は、血友病Aの止血治療戦略や血栓形成病態に応じた抗血栓凝固療法の発展に寄与する。凝固形成過程は内因系/外因系/凝固抑制系/線溶系が同時に互いに複雑に絡み合い進行する。今年度はFVIII活性化/不活化機構におけるこれら複数系の役割の新知見を得た。① 内因系(FVIII-トロンビン)制御軸:血液凝固反応増幅にはトロンビンのFVIII活性化は必須である。特に重要なFVIII-Arg372開裂を制御するトロンビン結合領域はA1ドメイン内の酸性領域内での硫酸化Tyr346が重要に関与していることが明らかになった。またTyr346を中心に数個の残基が結合に貢献している可能性が考えられた(現在研究中)。② 外因系(FVIII-FVIIa/組織因子(TF)制御軸):FVIIaは凝固極初期相にFⅧを活性化し、その活性化の促進にTFが重要な役割を果たす。このTF機序としてFVIIIに直接結合してvon Willebrand因子と競合阻害することによりFVIIaがより作用しやすくなること、またこの結合にはFVIII軽鎖が、TFでは膜貫通領域外領域が相互作用している可能性が考えられた。③ FVIIIa-FIXa制御軸: FIXa結合領域にあるP1809L新規変異FVIIIを有する軽症型血友病AがFVIIIインヒビターを出現する機序を最終的に決定した。Pro1809はC2ドメインの抗原性を制御するとともに、この変異FVIIIはC2エピトープ2248-2285残基認識抗体出現させること、この変異のためC2ドメイン両末端の領域の構造を変化させることによりVWFやリン脂質結合部位をdisturbすることが明らかになった。
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