研究課題/領域番号 |
24591559
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
松井 英人 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (00571027)
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キーワード | 血友病A / 遺伝子治療 / 細胞治療 / インヒビター |
研究概要 |
現在我が国において血友病患者の多くは、安全な血液凝固因子の定期補充療法が可能となり、関節内出血や筋肉内出血などの重篤な出血症状を認めることは少なくなった。しかしいまだに、製剤の反復投与が原因で約25%の血友病A患者に凝固第VIII因子(FVIII)に対する同種抗体(インヒビター)の発生が認められる。インヒビターが発生した血友病A患者は、補充療法が無効となり止血管理が極めて難しくなる。これまでに、インヒビター消失を目指した免疫寛容導入療法が試みられ一定の成績が報告されているが、副作用や莫大な医療費の問題があり、新たな方法の開発が待たれている。一方、遺伝子治療/細胞療法の研究分野においてはめざましい技術的な進歩により、ウイルスベクターなどを用いて外来遺伝子を強制的に導入する方法でFVIIIの持続的発現が可能となった。我々はすでにカナダクイーンズ大学との共同研究で、ex vivoでFVIII遺伝子を導入した血管内皮前駆細胞(Blood Outgrowth Endothelial Progenitor Cells:BOECs)による細胞移植を血友病Aマウスモデルで確立し、移植に伴う免疫応答の回避に成功している。(Matsui H, et.al. Stem Cells 25:2660-2669, 2007)。本研究プロジェクトでは、従来の様なFVIIIの頻回静脈投与が必要であった方法を回避し、臨床応用時に血友病患者への負担が軽減できるより安全でかつ効果的な自己血管内皮前駆細胞移植による新規免疫寛容導入療法を確立することを目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
インヒビター陽性血友病Aマウスモデルを用いて細胞移植による免疫寛容導入療法を行った。①マトリゲル移植:基底膜マトリックス(BD社マトリゲル)は細胞外基質スタンパク質を多く含む可溶性基底膜調整品である。これまでのマウス移植実験で、BOECsの接着および分化に有効であることを確認している。FVIII遺伝子導入済みBOECs(2x106cells)浮遊液とマトリゲルを混合したものを皮下へ注入するだけでゲル形成が完了し、一定期間マウスの皮下へBOECsが生着し留まらせることが可能である。②細胞シート移植:温度応答性細胞回収培養皿(セルシード社UpCell)を使いFVIIIを発現するBOECsシートを作製する。その後細胞シートを作製しマウスの皮下へ移植する。細胞シートは生体内移植後の機能的接着に有効であるとともに、外来性マトリックスを使用しないため移植に伴う炎症を少なく押さえることが可能である。方法①②ともにインヒビター力価の低下を認めたが、その低下には約半年以上の期間が必要であった。そのため、研究が少し遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
細胞移植実験後の治療効果は、①抗第VIII因子抗体(インヒビター)産生量のELISA測定、生体内での免疫応答を確認するための②サイトカインアッセイ(IL-6 TNF-αなど)、③T細胞増殖試験、制御性T細胞誘導試験(FVIII特異的制御性T細胞発現誘導の検討)などを行い、免疫寛容成立のメカニズムを詳細に検討する。また同時に、実験によって起こり得る副反応等も慎重に観察する。
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