現在我が国において血友病患者の多くは、安全な血液凝固因子の定期補充療法が可能となり、関節内出血や筋肉内出血などの重篤な出血症状を認めることは少なくなった。しかしいまだに、製剤の反復投与が原因で約25%の血友病A患者に凝固第Ⅷ因子(FⅧ)に対する同種抗体(インヒビター)の発生が認められる。インヒビターが発生した血友病A患者は、補充療法が無効となり止血管理が極めて難しくなる。これまでに、インヒビター消失を目指した免疫寛容導入療法が試みられ一定の成績が報告されているが、副作用や莫大な医療費の問題があり、新たな方法の開発が待たれている。本研究では、従来の様なFⅧの頻回静脈投与が必要であった方法を回避し、臨床応用時に血友病患者への負担が軽減できるより安全でかつ効果的な自己血管内皮前駆細胞移植による新規免疫寛容導入療法を確立することを目的とする。 研究方法は、血友病Aマウスの末梢血よりBOECsを単離培養した後、ウイルスベクター等でFⅧ遺伝子をex vivoで導入し、インヒビター陽性血友病Aマウスへ皮下移植し効果を検討した。その結果、細胞移植後にはFⅧの持続発現によるインヒビター力価の上昇を認めたが、しだいにインヒビター力価の低下を認め、細胞移植による免疫寛容導入方法の成功を確認した。採取した脾臓やリンパ節の免疫学的検索で、免疫寛容導入には制御性T細胞の関与が示唆された。 今回マウスモデルでの有効性が確認されたので、我々の施設のアドバンテージ(我が国で唯一の血友病A犬コロニーを保有)を生かし、実際によりヒトに近いと考えられる犬モデルを使った動物実験でその有効性の確認を行いたいと考えている。
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