研究課題/領域番号 |
24591566
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研究機関 | 千葉県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
李 元元 千葉県がんセンター(研究所), がん先進治療開発研究室, 嘱託研究員 (00392259)
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研究分担者 |
中川原 章 千葉県がんセンター(研究所), その他部局等, 病院長 (50117181)
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キーワード | 神経芽腫 / 依存性受容体 / 細胞死 |
研究概要 |
これまでの研究は、依存性受容体UNC5Dがデス受容体のリガンドであるTNFα又はTRAILによるデス受容体を介した細胞死シグナル伝達経路の活性化において誘導され、デス受容体を介した細胞死を促進することが明らかにした。さらに、UNC5Dアミノ酸配列には新たなcaspase 3/8認識サイトが同定された。活性化したcaspase3又はcaspase 8により、その認識サイトを切断して生まれたUNC5D断片は細胞膜に局在するが、リガンドであるnetrin-1との結合ができなくなることによって、細胞増殖シグナルの伝達ができず、細胞死シグナルの伝達へと導くこととなると考えられる。 本年度の研究では、TNFα処理によるUNC5Dの誘導に関わる転写制御機構を解明することを目的として、UNC5D遺伝子のpromoter領域の配列を解析した。その結果、UNC5D遺伝子のpromoter領域に幾つか転写因子MZF1及びN-Mycの推定上の結合サイトが存在することがわかった。次に、二つの転写因子をHela細胞にそれぞれ過剰発現させて、UNC5D発現制御への関与の有無を調べたところ、MZF1の過剰発現した細胞にはUNC5Dが誘導された結果が得られた。そして、TNFα処理した細胞にはMZF1が誘導されたことも見られた。一方では、MZF1の過剰発現はcaspase8を活性化させ、細胞死を誘導することがタンパクレベルで見出された。これらの結果は転写因子MZF1がデス受容体を介した細胞死シグナル伝達に携わり、その過程におけるUNC5Dの転写制御に関わる転写因子である可能性が示唆される。さらに、caspase 3/8によって切断したUNC5Dの細胞内断片とMZF1と共にHela細胞に導入して、FACSにて細胞死への影響を検討したところ、両因子の共発現は単独発現より細胞死が上昇することが見出された。以上の結果により、UNC5DはMZF1の標的として、デス受容体を介した細胞死シグナルの活性化において誘導され、細胞死を促進することが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年の研究では、転写因子MZF1がUNC5Dの転写制御能を持ち、TNFα処理に応じて誘導され、デス受容体を介した細胞死におけるUNC5Dの発現を制御することを明らかにした。さらに、caspase 3/8によってリリースしたUNC5Dの細胞内断片とMZF1は細胞死を相乗的に促進することも判明した。従って、当初の研究計画通りに進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究では、UNC5Dの転写制御能を持つ転写因子として、MZF1が同定された。TNFα処理に応じて、MZF1が誘導され、デス受容体を介した細胞死におけるUNC5Dの発現を制御することを明らかにした。さらに、108例の神経芽腫を用いた我々の研究では、UNC5D mRNAの高発現は悪性度が高い進行症例(stage3、4)において良好な予後と有意に相関することが判明した。これらの結果は、UNC5Dが細胞死の誘導に携わる重要な因子であり、その高発現が進行神経芽腫におけるアポトーシスの誘導に密接に関連している可能性が示唆される。一方では、UNC5ファミリーメンバーUNC5A、UNC5BおよびUNC5Cが存在する遺伝子座のLOH(loss of heterozygosity)および発現低下がさまざまな腫瘍に検出された(Proc Natl Acad Sci U S A. 100(7): 4173-8, 2003)。また、UNC5D遺伝子promoter領域のhypermethylationが肺がんに検出された(Proc Natl Acad Sci U S A. 105(1):252-7, 2008)。そこで、今後は神経芽腫におけるUNC5D遺伝子のgenetic および epigeneticな異常の解析を行い、そのgenetic および epigeneticな異常と進行神経芽腫の予後との関係を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
科研費の使用は本年度の研究を当初の研究計画通りに順調に進展することを確保した上、来年度に行う予定である研究計画に配慮し、使用を控えた。また、本年度の分担研究者の部分は来年度に繰り越しとなったので、次年度使用額が増加した。 次年度は、神経芽腫細胞株及び臨床検体を用いて、神経芽腫におけるUNC5D遺伝子のDNAメチル化状態およびその遺伝子座のLOHの有無を調べる。さらに、UNC5Dの発現が低い神経芽腫細胞株および摘出された進行神経芽腫組織から分画したprimary neuroblastoma 細胞を用いて、DNAメチル化阻害剤処理によるUNC5Dの発現回復の有無を検討する。また、UNC5Dが発現している予後不良症例では、腫瘍にStop Codonを誘導するミューテーションや機能不全を起こす変異がないか検討を行う。そして、これらの細胞がアポトーシスとどのように関係しているか検討する。以上の実験により、UNC5Dのgenetic および epigeneticな異常と進行神経芽腫の予後との関係を検討する。
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