研究課題/領域番号 |
24591591
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
西條 政幸 国立感染症研究所, ウイルス第一部, 部長 (50300926)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | アシクロビル / ウイルス性チミジンリン酸化酵素 / 薬剤耐性 / 単純ヘルペスウイルス1型 / 新生児ヘルペス / ヘルペス脳炎 |
研究概要 |
アシクロビル(acyclovir,ACV)は,単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)感染症に対して増殖抑制効果を発揮し,安全な薬剤である.これまで臨床現場においてHSV-1等による脳炎患者に使用されるようになって30年が経過した.ACVが抗HSV-1活性を発揮するためには,HSV-1が発現するウイルス性チミジンリン酸化酵素(viral thymidine kinase,vTK)によりリン酸化され一リン酸化体になることが必要である.そのため,ACV耐性HSV-1の多くはvTK遺伝子に変異が認められることが多い.残りのACV耐性はHSV-1のDNA合成酵素(DNA polymerase,DNApol)に変異が認められる.ACVが臨床現場でHSV-1によるヘルペス脳炎の治療薬として使用されるようになって30年を超える年月が経過したが,ウイルス学的に証明されたACV耐性HSV-1による脳炎患者の報告はない.それはヘルペス脳炎の患者の脳脊髄液(cerebrospinal fluid,CSF)からHSV-1を分離することができないからである. CSFからHSV-1のvTK遺伝子を完全長で増幅することができれば,その遺伝子配列を用いて組換えvTK蛋白質を発現させ,そのACVリン酸化能を測定することで,病原体としてのHSV-1のACVおよびその誘導体に対する感受性を測定する方法を開発した(Antiviral Res 91:142-149, 2011). H24年度には,ACVによる治療に抵抗性を示したヘルペス脳炎を伴う新生児ヘルペス患者のCSFからvTK遺伝子を増幅するのに成功し,その組換えvTK蛋白質を発現させた.次いでそのvTKのACVリン酸化能を測定したところ,その活性が低下していることを証明した.この患者がACV耐性HSV-1による脳炎を発症していたことが世界で初めて証明された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画のひとつの「ACV療法に抵抗性を示した新生児ヘルペス患者に関する研究」は,計画通り遂行された.その成果は学術論文として発表された. また,「DNApol関連ACV耐性HSV-1の性質の解析の研究」においては,S2242やその他の薬剤存在下でHSV-1を増幅させ,DNApolの変異に基づくACV耐性HSV-1株の作製に取りかかり,計6株(S2242存在下培養で3株,ACV存在下培養で3株)のHSV-1が人工的に作製された.これらの株のACV以外の抗ウイルス薬(ガンシクロビルやブリブジン等)への感受性について解析する.また,これらのマウスにおける神経病原性等についても解析が開始された. S2242存在下で培養することで得られたDNApol関連ACV耐性HSV-1の株の中で,ACVに高度耐性かつガンシクロビルに高度感受性を示す株が認められ,それはマウスにおける神経病原性は親株とほぼ同等であった.そのことから,DNApol関連ACV耐性HSV-1感染症の治療効果に関する研究を,この株およびその親株を利用して解析することが可能であることが明らかにされた.
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今後の研究の推進方策 |
H25年度は,H24年度の研究で得られたDNApol関連ACV高度耐性HSV-1のマウスにおける神経毒性を確認した後,親株(ACV感受性,高神経毒性)と比較してACVおよびGCVによる治療効果について,マウスを用いて解析する. H26年度の研究計画のひとつである薬剤耐性HSV-1感染症の治療ストラテジーを構築するための基礎データを蓄積したい.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究遂行に必要な消耗品や備品等の購入,学会発表や研究打合せ等のための旅費に充てる.
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