研究課題/領域番号 |
24591591
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
西條 政幸 国立感染症研究所, その他部局等, その他 (50300926)
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キーワード | アシクロビル / ウイルス性チミジンリン酸化酵素 / 薬剤耐性 / 単純ヘルペスウイルス1型 / 新生児ヘルペス / ヘルペス脳炎 |
研究概要 |
アシクロビル(acyclovir,ACV)は,単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)感染症に対して増殖抑制効果を発揮し,安全な薬剤である.昨年度は世界で初めてウイルス学的にACVに耐性のHSV-1による新生児ヘルペス(脳炎)の患者について報告した(J Clin Microbiol 51:356, 2013).脳脊髄液(CSF)からHSV-1のvTK遺伝子を完全長で増幅し,その遺伝子配列を決定し,さらに組換えvTK蛋白質を293T細胞に発現させ,そのACVリン酸化能を測定することで,病原体としてのHSV-1のACVおよびその誘導体に対する感受性を測定する方法を利用した(Antiviral Res 91:142-149, 2011). ACV耐性HSV-1による脳炎として報告された論文(Ann Neurol;67:830, 2010)で報告されているvTK(41番目ArgのHisへの変異)がACV耐性を誘導するか否か解析した.この遺伝子変異を有するvTKのACVリン酸化能はACV感受性株のそれと同等であった.ACV耐性株による脳炎という報告を裏付ける結果は得られなかった. DNAポリメラーゼ(DNApol)に変異を有し,それがACV耐性を誘導することが確かめられているHSV-1株を,S2242含有培地を用いてHSV-1を増殖させることにより作製し,それらのマウスにおける神経毒性,DNApolにおけるアミノ酸変異の性質,ACV以外の薬剤に対する感受性等を調べ,以下の成績を得た.DNApol 変異によるACV耐性HSV-1感染症において,1)アミノ酸変異は保存領域に多く認められる,2)ACVに交差耐性を示すだけでなく,フォスカルネットにも耐性を示すが,ガンシクロビル(GCV)には高度感受性を示すことが多い,3)ACV治療に抵抗性を示すが,GCVによる治療が効果的である,等であった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究計画のひとつの「ACV療法に抵抗性を示した新生児ヘルペス患者に関する研究」は,計画通り遂行された.世界で初めてウイルス学的にACVに耐性のHSV-1による新生児ヘルペス(脳炎)の患者について報告した(J Clin Microbiol 51:356, 2013).「DNApol関連ACV耐性HSV-1の性質の解析の研究」においては,S2242やその他の薬剤存在下でHSV-1を増幅させ,DNApolの変異に基づくACV耐性HSV-1株の作製に取りかかり,計6株(S2242存在下培養で3株,ACV存在下培養で3株)のHSV-1が人工的に作製された.これらの株のACV以外の抗ウイルス薬(ガンシクロビルやブリブジン等)への感受性について解析した.また,これらのマウスにおける神経病原性等についても解析し,さらにこれらのウイルスによる感染症のACVおよびGCVによる治療効果についても解析し,重要な知見を得た. S2242存在下で培養することで得られたDNApol関連ACV耐性HSV-1の株の中で,ACVに高度耐性かつガンシクロビルに高度感受性を示す株が認められ,それはマウスにおける神経病原性は親株とほぼ同等であった.そのことから,DNApol関連ACV耐性HSV-1感染症の治療効果に関する研究を,この株およびその親株を利用して解析することが可能であることが明らかにされた.その株を用いて,DNApol関連ACV耐性HSV-1感染症にはGCVを用いるとよいことが明らかにされた.HSV感染症における薬剤感受性試験の重要性が示された.
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今後の研究の推進方策 |
1) 今後の研究の推進方策(最大800字) H26年度の研究計画のひとつである薬剤耐性HSV-1感染症の治療ストラテジーを構築するための基礎データを蓄積したい.HSV-1の臨床分離株のvTKおよびDNApolの塩基配列のデータベース化とACV耐性HSV-1のvTKおよびDNApolの塩基配列のデータベース化して迅速薬剤感受性システムを整備する. 2) 次年度の研究費の使用計画(最大800字) 消耗品,学会発表等のための旅費,研究遂行に必要な備品等の購入に充てる.
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