研究課題/領域番号 |
24591592
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
木所 稔 国立感染症研究所, ウイルス第三部第三室, 室長 (00370958)
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キーワード | ムンプスウイルス / 中枢神経病原性 / リバースジェネティクス / 病原性復帰 |
研究概要 |
当該研究の主たる目的は、病原性復帰ムンプスウイルス(MuV)に存在する、V/PとL遺伝子上の2つの変異が病原性復帰をもたらす機構を解析することでMuVの病原性の分子基盤を解明することにある。初年度の研究から、病原復帰にはV/P遺伝子の変異が関わっていること、その分子機構にはV蛋白質によるインターフェロン産生阻害によらない別の機構であることが示唆された。 H25年度はV/P遺伝子の変異による病原復帰の機構を調べるため、この変異を持つウイルスrY213Pmと親株rY213oriの転写効率と複製効率をReal-time PCRにて解析した。併せて、感染細胞内のウイルス蛋白質の分布、及び宿主蛋白質との相互作用の違いについても解析した。その結果、ゲノムRNA量、アンチゲノムRNA量、各遺伝子のmRNA量に差は認められず、各ウイルス蛋白質、NP,P,V,M,HN,Lの細胞内分布にも差異はなかった。また、変異の入っているP蛋白質と相互作用する細胞性因子についても検索したが、rY213PmとrY213oriとでP蛋白質に結合する蛋白質のパターンに差は認められなかった。以上の結果より、現時点ではV/P遺伝子の変異による病原性復帰の機構は不明である。 rY213oriの元株Y213を次世代シーケンサで解析したところ、rY213oriに反映されていない2ヶ所の変異がL遺伝子内に見出された。 H25年度は高病原性株大館株の組換えウイルスrOdateを作成し、その病原性を新生ラットにて元株と比較した。その結果、rOdateはラットに対して高い中枢神経病原性を示し、元株の性状を保持していることが証明された。 また、2種類のムンプスワクチン株による水平感染が疑われる3症例から分離されたウイルスを入手し、元のワクチン株とゲノム配列を比較したところ、3例ともL遺伝子にのみアミノ酸置換を伴う変異が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
結果的にV/P遺伝子の変異による病原復帰の機構解明はなされていないものの、H25年度に予定していたほぼ全ての研究を行うことができた。 加えて、H26年度に予定していたテーマをいくつか先行して行った。まず、大館株の組換えウイルスを作成し、その性状解析を行った。 また、現行ワクチン株による水平感染例から分離されたウイルスを解析し、現行ワクチン株における病原性復帰に関わると予想されるL遺伝子内の変異を同定した。
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今後の研究の推進方策 |
基本的に当初の予定通りに研究を進める。 現時点ではV/P遺伝子の変異による病原復帰の機構は不明のままなので、近縁のウイルスで見出されているP蛋白質の機能を参考に、さらに機構解明を進めていく。 大館株の病原性発現機構を調べるために当初予定していたrY213株とのキメラウイルス作製は、株間の系統学的違いが大きいため、キメラウイルスの性状への影響が懸念される。そこで、大館株に近縁で病原性の低い株を用いてキメラウイルスを作成し、解析する。 また、現行ワクチン株に含まれる、病原性復帰に関わると想定される遺伝子変異を持つヴァリアントウイルスの評価は、水平感染例からの分離ウイルスをベースに、その病原性の変化、ワクチンに含まれる比率などについて次世代シーケンサによる解析を含めて行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本来はジャーナルへの投稿用の予算を計上したが、明確な解析結果が得られず発表しなかったため支出されなかったことと、試薬代が高額な次世代シーケンサによるゲノム解析を、共同研究の形で他のラボにお願いすることができたため試薬代がほとんどかからなかった結果、次年度使用額が生じた。 H26年度は、物品費を¥652,253、旅費を¥450,000、その他:¥590,000で使用する予定である。
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